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[インタビュー]改正道路交通法のもたらす波紋と、認知症ドライバーに対する精神科医療機関の対応策

弁護士・外山法律事務所所長:外山 弘先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

認知症ドライバーに係る事故判例の半数以上は不起訴

―― 新聞報道に拠ると、警察庁の調査で75歳以上の免許保有者の起こす交通死亡事故率(2015年度中)が、75歳未満の2倍を超えたことが分かりました。また、2011年から2013年に高速道路6社が確認した高速道路での逆走541件のうち37%(200件)が、「認知症の疑いのある運転者によるもの」であったとも報道されています。高齢者に関係する交通事故が相次ぐ中で、2017年3月12日には改正道交法が施行され75歳以上の免許保有者が、一定の違反行為(信号無視や通行区分違反等)を行った場合に臨時認知機能検査を受け、検査の結果が悪くなった場合は臨時高齢者講習を受ける必要があります。また、臨時認知機能検査の結果が認知症のおそれがあった場合は医師の診断を受け、診断の結果、認知症であることが判明した時は免許証の取り消し等の対象になります。

改正道路交通法が施行されます

出典:警察庁ウェブサイトhttps://www.npa.go.jp/koutsuu/menkyo/kaisei_doukouhou/leaflet_A.pdf

外山:  2016年11月にも横浜市で、認知症の疑いがあるとされる87歳のドライバーの運転する軽ワゴン車が集団登校中の小学生の列に突っ込み、一人の児童が亡くなるという悲惨な事故がありました。近年、認知症に絡んだ大きな交通事故が多発していますが、実際の裁判事例を検証すると、刑事上は半数以上が不起訴となっている実態があります。仮に複数の被害者が出たケースであっても、ドクターによる精神鑑定の結果、「責任能力なし」と判断されると、起訴されない場合が多かったのです。しかし、警察としては高齢者の交通事故を防ぐために何らかの手立てが必要と考えて、道交法を改正して臨時認知機能検査・高齢者講習に加え、主治医による診断書の提出が求められるようになりました。

―― 診断で認知症と判断されれば、運転免許の取り消しにまで踏み込んでいますが・・。

外山:  遡る2013年の道交法一部改正で、認知症等を診断した医師による「任意の届出制度」が設けられました。要するに、医師側が「認知症等と診断した患者について、その者が免許を受けた者であることを知った時に、診断結果を公安委員会に届け出ることが出来る制度で、その結果次第で同委員会は、認知症等のドライバーの運転免許証を返納させる権限を持つわけです。前提として当該患者が免許を有しているのか否かを、医師が公安委員会に確認することが出来るようになっています。精神科医療機関は、認知症やてんかん等に起因する交通事故を防止する「任意の期待」を負うことになりました。医療機関にとっても非常に重い役割を担う結果となりましたが、あくまでも「責任義務」ではなく「任意規定」であり、交通事故への一定の抑止が期待されたのです。

改正道路交通法が施行されます 改正道路交通法が施行されます

「一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について」(警察庁)より、
「別紙様式第1(届出用)」と「別紙様式2(確認要求用)」を抜粋

(参考:警察庁ウェブサイト)
https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20160930-146.pdf

―― 警察は精神科の先生方に認知症等に係る交通事故の“防波堤”の役割を期待したのですね。不起訴になるケースが多いので、国民感情からも高齢者等の運転の抑制化が求められた背景があったのでしょうか。

外山:  「責任能力がなければ刑事責任を問えない」のが法律の原理・原則であり、限界でもあったのですね。仮に認知症のドライバーが瞬間的な判断能力を失い運転を制御出来なければ、交通事故に至ります。その後の結果にも「認知症の人」本人は免責されます。重大な交通事故が発生することの予見が不可能であれば、誰も責任を取らない事態が招来している。その前段階として、交通事故を起こすリスクのある高齢ドライバーに運転免許証を与えない仕組みを作るのが、道交法改正の肝になる部分だと思います。