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「自動車運転死傷行為処罰法」の波紋
対象患者交通事故厳罰化の医療機関に与える影響とリスク・マネジメント

外山法律事務所所長 外山 弘先生(弁護士)
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

 2014年6月30日に大阪・ミナミの御堂筋でワゴン車が暴走して、通行人ら3名が負傷した事故で、大阪府警は7月4日ドライバーの男性を「自動車運転死傷行為処罰法」(以下、同法)違反の疑いで逮捕した。意識障害を起こす低血糖症の影響による事故として、同法の危険運転致傷罪を適用した初めてのケースとなった。同法は2011年に栃木県鹿沼市でクレーン車の運転手がてんかんの薬を飲まずに発作を起こし、児童6人を死亡させた事故等をきっかけに2014年の5月に施行されたもの。運転に支障を及ぼす恐れのある疾患として、①統合失調症②てんかん③再発性の失神④無自覚性の低血糖症⑤躁うつ病⑥睡眠障害――の6種類が指定された。これらの患者が「正常な運転に支障が生じる恐れがあると自覚」しながら「結果的に意識を失う」などして、「人身事故を起こす」と危険運転致死傷罪が適用される可能性がある。従来の過失運転致死傷罪(最高7年の懲役か禁錮)よりも罰則は重く、最高15年の懲役が科せられる。更に同法では「損害の公平な分担」という観点から、事故を起こした当該患者の主治医や医療機関が損害賠償義務を負わねばならないケースも想定されるので、注意が必要だ。弁護士の外山弘先生に、医療機関に与える影響と、危機管理について話を聞いた。

「故意」がなくても成立する結果的加重犯
特定疾患患者に対する偏見助長の危険性

―― 5月に施行された同法では、従来の「過失」運転から「危険」運転として改正され、厳罰化が進められましたが、当然、幾つかの医学会からは、特定疾患の患者に対する偏見を助長する恐れがあるとの意見が出てきています。まずは厳罰化に関する率直なご意見をお聞かせ下さい。

外山:いずれもドライバーはてんかんの患者ですが、3年前の鹿沼市のクレーン車事故、2年前の京都祇園のワゴン車暴走により8人が死亡した事故等で、厳罰化が進められた経緯は理解出来るのですが、法律家の立場からすると起こった事柄だけを重視して特別立法化するのには疑問も残ります。法曹界の中には私と同様の考えの人も多いように感じます。

―― 世論や被害者感情におもねって、冷静な議論が行われないままに法制化された印象がありますね。

外山: 6月の御堂筋事故は糖尿病患者がドライバーだったことで危険運転致傷罪(以下、同罪)が適用されたものの検察側も慎重で、処分を保留にしています。同罪で逮捕されたものの実際には、未だ起訴には至っていないのです。これは二段の結果的加重犯と呼ぶ犯罪類型になります。一般的に犯罪とは最後の結果まで「故意」がないと成立しませんが、結果的加重犯とは「故意」がなくても結果が生じたら、それなりの重い刑罰を科するという類型です。例えば暴行して相手に怪我をさせた場合に、傷害の「故意」がなくても結果的加重犯として傷害罪が成立するのです。同罪の場合もてんかん等の罹患者が運転すれば、正常な運転に支障が出る「恐れ」があります。「恐れ」を認識して運転すれば、正常な運転が不可能な事態に陥って人を死傷させた場合に、「故意」ではなくとも責任を負うと言う二段論法の類型になるのです。患者本人が「恐れ」を認識して運転することが、「故意」と同様の扱いになってしまうのです。

―― 明確に6つの疾患が「一定の病気」として指定されましたが・・・(図1)。
    自動車運転致死傷行為処罰法の立法経緯

外山: 過労による居眠り運転のようなケースは中間類型のどれにも当たらないのに、「一定の病気」の場合には、本条項の中間類型に当たり得るとするのは、これらの病気に対する差別と受け取られても仕方がないと思います。今回、定められた政令では「自動車の運転に支障を及ぼす恐れのある病気」としては、「幻覚の症状を伴う精神疾患」として①統合失調症。「発作により意識障害または運動障害をもたらす疾患」として、②てんかんと③再発性の失神④無自覚性の低血糖症。この他、「自動車の運転に支障を及ぼす恐れのある疾患」として、⑤躁うつ病⑥重度の睡眠障害――が規定されます。これらの特定疾患を病名によって区別し差別的扱いを行うことは、患者に対する偏見を助長する危険性が生じます。「走行中に正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」との概念が極めて曖昧であるため、これら特定の疾患と診断された人たちは、全て客観的にこの状態に該当し、認識しているとして、中間類型の犯罪が成立する恐れが出てくるのです。社会や企業体の中で、これらの疾患の診断を受けた人たちを、一律に排除することにもなりかねないことが不安視されますね。