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院内で発生する職員への暴力被害への対応策

筑波大学大学院人間総合科学研究科 三木明子

院内暴力の問題と向き合う

 患者が病気を抱えイライラしているという理由で、病院職員への暴力行為を正当化することはできません。患者の暴力は我慢するものではなく、早期に暴力の芽を摘むことが必要です。精神論ではなく、適切な対応を習得することで、患者にとっても病院職員にとっても安全で安心できる職場環境を形成することができるのです。
 改めて言うまでもなく、暴力行為は犯罪です。暴力行為者が患者であろうとなかろうと、暴力を受けたという事実に変わりはありません。また統合失調症でも認知症患者でも叩かれたのであればそれは「暴力」です。病気を理由に暴力の定義が変わることはないのです。
 暴力に対しては組織対応が何より重要です。日本医療機能評価機構のVer6.0の6.1.3.3に「院内暴力について組織的に対応している」と項目が新規に追加されたことは、医療現場における暴力防止対策を推進していく上で、大きな一歩といえます。 当然ながら対策を進めるうえで最も大切になるのが、事業主、安全衛生担当者が院内暴力の問題に対応するという明確な方針を表明することです。院内暴力の問題は担当者一人が奮闘しても、対策が浸透するわけではありません。安全管理体制を整備し、包括的な防止対策を推進していく必要があります。そのポイントは6点です。

    1.  組織の健全で安全な風土づくり
    2.  保安体制の整備
    3.  職場の暴力防止対策を検討する委員会の設置
    4.  被害者・加害者用相談窓口の設置
    5.  対応マニュアルの整備
    6.  職員への啓発教育

 院内暴力は、職員間、患者間、患者⇔職員と、加害者と被害者の組み合わせで4パターンに分類されます。今回は、患者から職員への暴力に限定して、具体的対応を紹介します。

暴言が発生した時の対応

冷静さを保ち、落ち着いて対応します
突然、相手が怒鳴っても、本当に怒っているとは限りません。相手は、あなたの反応を試している場合があります。また「今すぐ○○しろ」など、対応を急かされても、自分のペースを崩さないように対応します。「しばらくお待ち下さい」「確認しますので、少しお時間を頂戴します」と対応し、慌てる必要はありません。
挑発や揺さぶりに動じず、毅然と対応します
相手はあなたをバカにしたり、人格を否定するような傷つける言葉で攻撃してきます。絶対に、相手の挑発にのってはいけません。また不用意に謝罪する必要もありません。会話は最小限にとどめましょう。不当な要求には「できない」と伝えるだけで十分で、必要以上に話す必要はないのです。それ以上の会話は、揚げ足を取られるので不要です。
証人・証拠を残すために、自分にとって有利な場所に移動します
暴言は、暴力の中でも証拠が残りにくいものです。そのため、自分にとって有利な場所で対応する必要があります。自分にとって有利な場所とは、防犯カメラや録音装置のある場所、他の職員がいる場所、第三者に見える場所、いざという時のために逃げ道が確保されている場所のことです。暴言が発生した場合には、原則、個人対応せずに、他のスタッフと協力して速やかに対応しましょう。複数対応のメリットは、1対1の力関係や相手のペースに巻き込まれずに、精神的にも身体的にも自分が有利な立場に立つことができます。また証人の確保や証拠保全につながり、自分自身が冷静に対応できます。さらには相手にとっても暴言をエスカレートさせずに落ち着かせることにつながります。

暴言の対応は3つの「かえる」を使う

 暴言の対応は、3つの「かえる」を有効に使うことです。①人をかえる、②場所をかえる、③時間をかえる、ことで暴言をエスカレートさせず、鎮静化させることができます。また、怒りにまかせて暴言を吐いている相手には、時間を決めて対応しましょう。
 実際に、患者の暴言に対応し、職員の業務が1時間以上にわたり中断したケースがあります。職場で10分と決めたら、そのルールに従います。対応しても鎮静化できない場合には、次の対応部門に任せましょう。怒鳴る相手がいなければ、相手は一人で怒鳴り続けることができません。ひたすら際限なく一方的に暴言を聞き続けるのは、自分自身が傷つくだけで、適切な対応とはいえません。
 暴言を繰り返す患者がいる場合には、チームで情報を共有し、あらかじめスタッフを決めて対応することがコツです。チームメンバーの中には、それほど患者の暴言をエスカレートさせずに対応できている人がいるかもしれません。そのようなスタッフの対応を職場で共有し、担当者(苦情処理課、渉外担当課など)に対応を委ねると良いでしょう。

コントロールするのは自分の「感情」ではなく「言動」

 患者から暴言を吐かれた時、我慢しなければいけないと思っていませんか?暴力を我慢するということは、自分の感情を抑圧しているにすぎず、適切な対応ではありません。誰でもバカにされたり、大声をだされたり、殴られて、嬉しい、楽しいと感じる人はいないと思います。不快だったり、嫌だったりするわけです。そのように、自分の中で最初に沸き起こる感情(一次感情)を抑圧せずに、相手に伝わる言動をコントロールすればいいのです。コントロールするのは自分の「感情」ではなく、「言動」です。心の中では何を思っても自由です。しかし感情に流され、衝動的な行動や不適切な行動を起こしてはいけないのです。私が行っている暴力防止のトレーニングでは、暴言や身体的暴力が発生した際の対応においても、この一次感情は抑圧させません。暴力が怖い、嫌だ、関わりたくないなど、どう感じてもそれは正常な反応だからです。ただ病院職員として適切に対応しなければいけないので、言動をコントロールするトレーニングを行う必要があるのです。

身体的暴力が発生した時の対応

逃げ道を確保します
どんな時でも自分の逃げ道を確保することが身体的暴力を回避するコツです。どこに危険が潜んでいるかわかりません。死角で業務を行う時は、どのようなポジションをとれば逃げられるかを考えていなければいけません。部屋の奥や壁側に追いつめられた場合、一瞬のタイミングを見て逃げなければ、壁に体を押し付けられ、繰り返し激しい暴力を受けることになります。
複数対応を原則とし、毅然と対応、時に法的措置をとります
身体的暴力には複数の職員で対応することを原則とします。悪質で繰り返される暴力には、毅然として対応しなければなりません。暴力行為者は、相手が弱いとみればつけこんできます。無理な要求を通そうと、力で支配しようと試みるわけです。病院としてはいかなる暴力行為も容認できないことを言葉と書面にて警告し、治療の中断や強制退院などの措置もあることをあらかじめ示しておくことが必要です。最終的には警察に通報、あるいは被害届を提出し、患者を強制退院させることも検討します。