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クレイマー・モンスターペーシャントの実態とその対策

関西医療福祉通信 冨井 淑夫

患者サービスへの不満が怒り“爆発”の引き金に

 2008年11月に、元厚生労働事務次官と夫人がサバイバルナイフを持った男に襲撃され殺傷された事件は、その容疑者が直接的に被害者らと何の接点も無かったという意味で衝撃的でした。マスコミ報道等を集約すると、この容疑者は隣人や周辺住民と絶えずトラブルを起こしていたクレーマーだったと言われています。私たちは仮に人に恨みを買うようなことは無いと確信していたとしても、一体「何者か分からない人間」に突然襲いかかられる危険性のある、殺伐とした時代に生きていることを忘れてはなりません。
 医療機関も例外ではなく、医療提供者側に何の落ち度がなくても、患者側の一方的な思い込みでトラブルが発生するクレーマー的な案件が、近年急増しつつあります。
 医師の患者に対する対応や待ち時間への不満が引き金となり、暴言や暴力へと発展していくケースが多いようですが、ここ数年の間に相次いで引き上げられた患者の窓口負担金増や病院の平均在院日数短縮等、「医療費適正化」の名の元に進められた経済優先の医療政策が、患者側の鬱憤や苛立ちを増幅させているとの見方も出来ます。特に小泉政権下の2006年6月、可決成立した「医療制度改革関連法」により、「療養病床の大幅削減」、「療養病床に入院する高齢者の食費・居住費の全額自己負担化」、「70〜74歳の年齢層患者の窓口負担増」、「後期高齢者医療制度の創設」等の医療費圧縮施策の導入が、患者のさらなる“怒り”を駆り立て、マスコミもそれに拍車をかけるような報道を続けている状況があるようです。
(冷静に考えるならば政府の制度設計に問題があるので、医療機関に“怒り”が向けられる謂れはない筈ですが・・・。)
 クレーマーやモンスターペーシャントの出現は、医療機関側の対応やサービスの悪さによる医療現場での患者の不満蓄積と、政策誘導によって引き起こされた医師(医療従事者)・患者関係の阻害と言う、2つの要因から考えていく必要がありそうです。

被害者の約9割が看護師現場での安全確保や支援体制の遅れ

 全日病〔社団法人全日本病院協会〕は、2008年4月、『院内暴力など院内リスク管理体制に関する医療機関実態調査』を発表しました。調査期間は2007年12月から2008年1月31日までで、全日病会員病院2248のうち、全国1106病院から回答を得られ有効回答は49.2%。
 同調査結果の一部を紹介すると、「過去1年間で職員に対する院内暴力〔精神的・身体的暴力〕があった」とする病院は52.1%(576病院)、「なかった」病院が46.8%で半数以上の病院職員が、何らかの形で暴力を受けていた実態が明らかになりました。〔参考資料〕
 またそれらの病院における、「過去1年間における職員に対する院内暴力と暴言等の発生件数」は全体で6882件、1病院当りの平均は約12件に上りました。6882件の内訳は最も多かったのが、患者本人からの場合「精神的暴力」で2652件、「身体的暴力」が2253件、「セクハラ」が900件と続きます。6882件の暴力のうち警察への届出件数は5.8%(397件)で、弁護士への相談件数は僅か2.1%(144件)でした。
 「発生した暴力によって職員が怪我・傷害・精神的ショックを受けたか」に関しては、「受けた」が70.1%と多数を占めました。また暴力を受けた職種として最も多いのが看護師で88.6%(358人)を占め、事務職30.9%(125人)、医師25.5%(103人)と続き、看護師の被害の突出が浮き彫りとなりました。被害を受けた職員に対する支援として、「専門家によるカウンセリング」を行った病院は、24.6%(117病院)と約4分の1に過ぎません。 「院内暴力に対する管理体制と対策の整備状況」は、報告制度を「整備・実施している」のが38.9%であるのに比べて、「整備・実施していない」が41.0%と上回り、「検討している」は18.3%という回答でした。マニュアル・ガイドラインを「整備・実施している」は16.2%と少数派である一方、「整備・実施していない」が54.7%と半数以上を占め、「検討している」は28.8%。研修・訓練となると、12.7%が「整備・実施している」だけで、「整備・実施していない」が63.4%と大部分を占め、「検討している」も23.3%に過ぎません。
 「職員に対する院内暴力・暴言等が起こるのではないか不安はありますか?」と言う設問に対しては、「とても不安がある」(8.3%)、「不安がある」(52.4%)を合わせると60%以上に達し、「全く不安がない」との回答は0.8%と僅か。一方、「職員に対する安全は確保されていると思いますか?」との設問には、「十分確保されている」(0.9%)、「確保されている」(10.5%)が少数派でした。病院職員の多くはクライマーやモンスターペーシャントの出現に不安を感じながらも、自分の勤務する病院の安全確保は十分でないと感じています。近年、「防犯ビデオ・監視カメラの設置」、「護身用スプレーの常備」、「非常通報ボタン・非常電話の設置」等のハード面の保安対策は進んできたものの、職員教育やマニュアル・ガイドラインの整備、メンタル面のフォロー等、ソフト面の環境整備はまだまだ立ち遅れているのが現状のようです。また基本的に患者はあくまでも怪我人や病者であるため、「患者第一主義」を掲げる病院は、激昂する患者に反論や注意がし辛いのも事実です。警察権力の介入や弁護士との相談に躊躇する病院側の「苦悩」が、この結果からも見えてきます。

33(09.12.11)