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松山記念病院における救命救急体制向上への取り組み

 

財団法人創精会 松山記念病院
救急体制検討小委員会
林 智子

Ⅰ.はじめに

 精神科病院において、身体合併症は大きな問題である。急性期においては、入院直後は特に精神症状と併せて身体症状の観察が重要であり、潜在している身体合併症による急変のリスクも高い。また、慢性期や療養病棟では、高齢化による誤嚥や転倒など安全管理を必要とする要因は大きい。しかし、精神科単科の場合、医師を含めた医療スタッフには、身体問題への対処に限界が多く、特に予測のつかない突然の心停止など急変時に円滑な救命処置が行えないのが現状ではないだろうか。
 2004年7月1日から厚生労働省は、心停止の現場に居合わせた一般市民がAED(自動体外式除細動器:Automated External Defibrillator)を使用しても、刑法第37条の緊急避難 ※注1)、に相当するものとし、全国各地でAEDを含む救命講習の普及を求めている。
 この取り組みは、心停止事例において速やかな対処が、患者の救命率を向上させるというエビデンスに基づいて行われている。
 そこで、当院では患者急変事例の救命率を向上する為に、医療安全管理室に医師・看護師(時には、医事課職員が加わる事もある)で構成された救急体制検討小委員会を設置し、院内救急体制の見直しと改善に取り組んでいる現状を紹介したいと思う。

  • 注1)刑法第37条 緊急避難;救命手当ては、「社会的相当行為」として違法性を問われず、故意、もしくは、重過失でなければ法的責任はない。

Ⅱ.これまでの院内救急体制の問題点

 当院の病棟編成は、精神科救急治療病棟、男・女閉鎖治療病棟、身体合併症病棟、特殊疾患療養病棟、老人性認知症疾患治療病棟、精神療養病棟の743床を擁し、重度認知症デイケア、美沢デイケア、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所を併設している精神科単科の病院である。
 患者急変が起きた際には、院内救急コールで応援要員を確保し、救命処置を行い状況に応じて院内の身体合併症病棟か、三次救急救命病院に搬送し身体管理を行うシステムをとっている。しかし、このような体制では、急変が発生した病棟は瞬く間に大勢の応援要員が集合し、まさに「烏合の衆」といった状況になる。大勢の応援要因が確保される事で、多角的な視点からのアセスメントが可能であり、資器材の調達や患者搬送などが円滑に行えるといった側面があるかのように思われるが、実際には、

  1. リーダーとなる人物が不明確になる
  2. 誰が何の処置をしたのか、何の処置をしようとしているのか把握しづらく、処置が重複するリスクがある
  3. 直接処置に携わるスタッフにとっては、大勢の応援要員の視線と雑音が気になる
  4. 病棟によって資器材の保管場所が違っており、応援要員に依頼する方が返って時間を要する
  5. 大勢いるため身動きがとりにくい
  6. 直接処置に携わらなかったスタッフからネガティブ・フィードバックを受け、自信の損失に繋がる

 といった問題点が挙げられる。確かに、患者急変時の対応人数の確保は重要である。しかし、円滑な救命処置が行える人員配置を考えシステム化することが患者救命率の向上につながると考えられる。

Ⅲ.救急体制改善への第一歩

 これまでの救急体制の問題点に対し、一挙に改善する事は、医療安全の面から考えるとリスクが高く、医療事故に繋がる可能性が示唆される。まずは、現状をしっかりと把握し、改善できる所から少しずつアプローチを行う事とした。そこで、まず救急体制検討小委員会が着目した点は、救急体制を起動させるための要となる、院内救急コールのシステムとスタッフの救命処置に対する知識・技術不足である。

①院内救急コールシステムの改善

 医事課スタッフを交え、長年、採用されてきた院内救急コールシステムを事例検討する事で、患者急変時、動揺して的確な緊急通報が行われていないケースや、院内救急コールをかけても夜間など人員不足時、医事課スタッフが即座に受信できていなっかたケースなど、これまでのシステムの問題点が浮き彫りとなった。これらの問題点を整理し、円滑で簡潔明瞭な連絡システムを確立する事を目的とし、当院ではハリーコールが実施される予定である。
次に取り組んだのは、

②スタッフの救命処置に対する知識・技術の教育活動

 システムを改善し円滑に起動させる為には、そのシステムを有効に活用できるマンパワーが必要不可欠である。しかし、精神科では他科と比較して急変事例が少なかったり、日頃から医療行為が少なく、机上での知識の獲得と臨床経験だけでは、知識と技術が結びつきにくい。予期せぬ急変に遭遇した際に、医療従事者に求められる重要な要素は、基礎知識と技能をベースとした、冷静沈着に状況判断を行う能力とチームワークである。そのため、体験実習を中心とし、臨床に近い形で緊迫した実際の急変現場を模擬体験できる教育研修を定期的に開催している。 また、救急体制検討小委員会が協力・後援する形で、救命処置に興味のある看護師数名が中心となり、毎月1回、勉強会も開催している。