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ヒヤリハット・事故報告事例に関わるコミュニケーションエラーの実態と対策

 

医療法人静和会 浅井病院
診療情報管理室
鵜澤あずさ

はじめに

 チーム医療を効果的かつ効率的に進めるにあたって、重要な因子となるのが、職員間、あるいは職員と患者間での円滑なコミュニケーションである。 コミュニケーションとは、人間がお互いに様々な情報を、多様な手段により伝達しあうことである。なおかつ、お互いに相手の意図を理解してこそ真のコミュニケーションと言えるが、人と人との伝達行動が主体となるため、その過程ではエラーも発生しやすい。
 コミュニケーションが阻害されてしまう状況をコミュニケーションエラーと捉えると、ヒヤリハット・事故報告事例に関わるエラーはどの程度存在するのか。当院において実際に事例へと繋がってしまったケースの抽出・統計を行い、また、院内にて実施したアンケートの結果より、コミュニケーション(情報伝達)阻害要因の比較を行った。以上、2009年の院内研究発表をもとに、コミュニケーションエラーの実態とその対策について考察を行ってみたい。

Ⅰ.当院におけるヒヤリハット・事故報告事例から見たコミュニケーションエラー

 コミュニケーションが阻害されてしまう状況には、次のようなものが上げられる。1つ目は、情報が正しく伝わらない、情報を正しく受け取らない。2つ目はコミュニケーション行動そのものができないという状況である。院内で実際に発生しているコミュニケーションエラーにはどのようなものが存在するのか、まずは当院にて発生したヒヤリハット・事故報告事例から探ってみたい。
 2008年7月1日〜2009年6月30日までの1年間で報告された事例を分類ごとに集計し、その中でコミュニケーションエラーが原因のひとつであると思われるものを抽出した。
 当院における対象期間内のヒヤリハット・事故報告事例総件数は921件であった。但し、転倒・転落、骨折、喧嘩、暴力・器物損壊、自傷行為、自殺企図の分類ケース(計447件)については、職員が関わるコミュニケーション行動に起因する可能性が限りなく低いと推察されたため、それらを除外した474件を対象とした。そこからコミュニケーションエラーを抽出したところ、その件数は62件13.1%の割合となった。(表1)

ヒヤリハット・事故報告事例の分類別件数 及び コミュニケーションエラー種別割合

 この62件の内訳としては、その他、投薬、説明・接遇の順に件数が多くなっている。特に説明・接遇に関しては、総数に対するコミュニケーションエラーの割合が48.0%となっており、5割近くの事例にコミュニケーションが関わっていることがわかる。
 また、エラーの種別としては、職員同士のコミュニケーションエラーに起因する事例が64.5%と大きな割合を占めている。(表2) 説明・接遇に関する事例を個別に見ても、職員と患者間のやり取りよりも、職員同士の連絡不備などにより引き起こされた事例がより多く見られ、職員同士の情報伝達が、エラー発生時には大きな要因となっていることが推察される。
 部署で見ると、コミュニケーションエラー件数が一番多いのは、報告事例数の多い看護部であったが、報告事例に対するコミュニケーションエラーの割合が一番高かったのは事務部門であった。看護部が13.2%であるのに対し、事務部門は36.7%と4割近くにのぼった。他の部署が軒並み10%前後であるのと比べても、ヒヤリハット・事故報告事例に繋がるコミュニケーションエラーの発生確率が圧倒的に高いことがうかがえる。また、説明・接遇の事例数が一番多かったのも事務部門であった。
 次に、コミュニケーションエラーの詳細について見てみたい。(表3)
 コミュニケーションを阻害する要因としては、誤伝達によるもの、伝達行動の動機付けによるものが存在し、動機付け要因には動因および誘因の低下によるものが存在する(松尾,2002)。

情報伝達を阻害する要因とその内容

 誤伝達とは、日常的かつ潜在的に多数発生しており、人間の基本特性上、完全に抑止することは難しい要因となる。動因は「その行動を起こそうと内的に動かす力」であり、誘因は「その行動を起こさせる外的に引き寄せる力」である。この2つの積が「動機」として行動の生起を決定づける。そのため、動因と誘因のどちらか一方が低くても、一方が高ければ動機付けのレベルは保たれるが、つり合いが保てない時にはコミュニケーション行動が取れない、という状態に陥ってしまう。
 以上を踏まえ、当院内にて報告されたヒヤリハット・事故報告事例をコミュニケーションの阻害要因から分類してみた。62件中、複数の要因を含む事例が6割以上あり、述べ件数109件に対する割合を算出した。(表4)

当院におけるヒヤリハット・事故報告事例よりみるコミュニケーション阻害要因グラフ

 一番多かったのが情報の共有がないために起こった事例で、26.6%。次いで主観的確信の高さによるものが22.9%、認知的コストの高さによるもの18.4%となっている。また、情緒的共有・地位の共有に関する事例はここではまったく上がっていなかった。
 情緒的共有・地位の共有に関しては、報告書の文面からは読み取れない要因として存在する可能性があるにせよ、データで見る限りは事故に繋がりにくい要因であることが推察される。

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