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薬剤処方適正化の取り組み

医療法人井上会 篠栗病院 薬剤室
坂田 睦

はじめに

 本邦の抗精神病薬の多剤・大量投与の処方率は、諸外国のそれと比較して高いといわれています(文献1)。本邦では精神医学に限らず臨床医学一般において多剤投与の傾向があり、その要因として漢方や化学療法において併用療法が汎用されている影響が挙げられています(文献2)。今回は我々が2002年に、薬剤師が多剤併用大量処方に対して情報提供を行い、医療関係者相互で処方内容を共有した結果、処方内容に変化が生じた例を紹介します。

《処方の視覚的共有》

 2002年当時、第2世代の抗精神病薬が臨床に導入されると共に、多くの症例で第1世代から第2世代へのスイッチングが行われていました。その際、処方の変更時に前の処方内容がうまく削除できずに追加処方の形式が選択され、多剤・大量投与される患者が存在するようになりました。そのような中で、まず多剤併用大量処方が生じる原因は何かということを考えました。医師は患者さんの状態を良くしたいと考えて処方をしています。我々は、多剤・大量投与は「結果的に多剤併用大量療法になってしまった」と捕らえました。そこで、医師も薬剤師も共通で使える正しい評価基準はないかと検討しました。当時、研究等で用いられていた向精神薬の等価換算を臨床で利用することを考え、「データベースの作成」、「処方箋に換算量を明示」、「市販のパソコン用ソフトを用いた処方の推移のグラフ化」、「診療録への提示」を実行しました(図1)。

薬物治療情報の視覚的共有

 グラフには、薬物治療歴のある症例に関しては集積していた過去4年分のデータも載せました。そして、医師に主剤を確認し、ガイドラインを提示して情報提供を実施しました。約1年後、単剤投与の症例が増加し、抗精神病薬の処方量、抗パーキンソン薬の併用率が減少するという結果が得られました(文献3)。この取り組みにより、医師だけでなく看護師、その他のスタッフから「患者さんの処方の変更の推移がわかるようになった」との好意的な意見が得られました。

《医師への薬剤情報提供》

 最初に、多剤併用大量処方を目にした時、どのような過程でこの処方になったのかを考え、過去の処方歴や治療歴を集積した薬歴や診療録利用し、できる限りの情報を収集するよう努力しました。治療歴を調べると、多剤併用大量処方になった理由は、現主治医でない時に加わった薬だったり、一時症状が悪化した場合に加えられた薬が、急性期を回避できたにも係わらず、その後も処方内容がそのままだったりなど、十分理解できる理由があると考えました。これらのことから、我々薬剤師は、医師へ薬剤情報を提供する前に処方に関する情報を収集しておくことが大切です。そして医師に必ず主剤を確認します。治療の過程で新しい抗精神病薬が加えられることもあります。そのような場合、医師に対して主剤の変更の意向を確認することにより、剤数の増加を防ぐことができます。このような情報提供ができるようになるためには、薬剤師は、抗精神病薬の特徴を理解し、医師のそれぞれの薬に対する印象や感触を把握しておく必要があります。そして、処方のモニタリングを実施する。その際に処方だけを見るのではなく、病棟に出向いてどうして処方変更がなされたのかという疑問を持って、現状の処方内容に行き着いた過程と理由を考えた上で患者さんの症状の変化を観察していくことが大切です。

《看護師への薬剤情報提供》

 私は、「らぽーる」の「看護師の薬物療法への関心とチーム医療」で述べられているように看護師と薬剤師の協働治療参画が薬剤処方の適正化には重要と考えています。なぜなら、処方が変更になる時、特に症状の落ち着いた患者さんの処方が変わることは、看護師にとっても不安が生じると考えています。
 その不安が解消するように処方変更から考えられる症状の変化や副作用について事前に薬剤師が説明をしておくことが重要です。処方を視覚的に共有する取り組みは、日常、処方に関して話し合える環境を作るひとつのきっかけとなりました。医師と同じように看護師が薬物療法をどう捕らえているか、それぞれの薬に対してどう思っているかを知っておくことも大切です。医療関係者の中ではよく言われることですが、24時間患者さんを観察しているのは看護師です。しかし、勤務の都合により同じ看護師が観察しているのではありません。薬剤師は、夜間に病棟にいるわけではありませんが、同一の薬剤師が同じ病棟の患者さんを担当するので、毎日病棟で患者さんを観察することができます。この両者の連携が円滑にできるようになれば、患者を切れ目なく観察する事が可能ではないかと考えています。

《患者への薬剤情報提供》

 これまでは医療スタッフへの関与を述べましたが、作成したグラフは患者さんへの服薬説明へも活用しました。主剤の変更や減量の過程で規格が変更となった場合など、錠剤が大きくなった、錠数が増えたなどの不安に対してその都度作成したグラフを用いて処方内容の推移や変更理由を説明しました。当然、治療の当事者である患者さんは自分の薬に対して興味を持っています。その際、薬剤師側が一方的に薬剤情報を押し付けるのではなく、患者さんの服薬に関する考えを聞きながら患者さん自身が治療に参加していると実感してもらえるように薬剤情報提供を行うことが大切です。

70(11.12.22)