Home > チーム医療活動 > 統合失調症精神運動興奮状態に対する初期治療(PAGE 1)

統合失調症精神運動興奮状態に対する初期治療

山梨県立北病院
三澤史斉

Ⅰ.はじめに

 近年、わが国の精神医療は「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的な方策が掲げられ、これに伴い入院治療の役割はこれまでの長期入院を中心とした考え方から、救急・急性期治療中心へと変化してきています。その中で、わが国における急性期治療の最前線を担うユニットとして、精神科救急入院料病棟(以後、「スーパー救急病棟」)が2002年の診療報酬改定によって新設されました。これには、病棟構造、人員、運用面において厳しい基準が設けられ、わが国で最も高い水準の急性期入院治療を行うことが可能となっており、2007年1月時点で全国に25施設の設立が把握されています。
 このように救急・急性期入院治療について、設備の面では充実が図られてきていますが、治療技法の面ではどうでしょうか?これは病院や医師の方針で慣例的に行われているためばらつきが多く、特にこのばらつきは精神運動興奮状態などで早急な鎮静を要するような症例で目立つことが指摘されています(文献1,2)。今後、急性期治療技法の発展にはこのようなばらつきを把握し、最適な治療を標準化していくことが不可欠です。
 そこで、急性期入院治療の現場ではどのような治療が行われていて、どの程度のばらつきがあるのかを2つの調査から見ていきたいと思います。

Ⅱ.統合失調症精神運動興奮の初期薬物治療技法に関する意識調査(文献3)

1)方法

 2007年1月に精神科救急入院料病棟を有する医療機関全25施設において、急性期治療に携わっている各施設の医師1名に対してアンケート調査を依頼し、調査に協力した20名(80%)を対象としました。アンケート調査では、精神運動興奮状態を呈する統合失調症のモデル事例を提示し、その症例を診察した場合に入院当日に使用する全向精神薬と各種行動制限及び抗精神病薬投与経路の適切性について質問をしました。行動制限は隔離及び拘束の適切性について、抗精神病薬投与経路は持続点滴(以下、点滴)、静脈注射(以下、静注)、筋肉注射(以下、筋注)、経口投薬(以下、経口)、30分以上の内服説得(以下、内服説得)及び無投薬観察の適切性についての評価を尋ねました。評価は「きわめて適切:最善の治療」9点、「通常は適切:一次選択治療としてしばしば用いる」7〜8点、「どちらともいえない:ときには二次選択治療として用いるもの」4〜6点、「通常は不適切:自分ならめったに用いない治療」2〜3点、「きわめて不適切:自分なら決して用いない治療」1点まで9段階で行いました。

2)結果

 モデル症例に対して入院当日に使用するとして選択された抗精神病薬の内、最もクロルプロマジン(CP) 換算量の高い薬剤を主剤としました。有効回答を得られた19名のうち、各医師の主剤はリスペリドン 10名(53%)、ハロペリドール注射液 9名(47%)とほぼ同数の2群に分かれ、これをリスペリドン群及びハロペリドール注射群としました。
 リスペリドン群のリスペリドン平均投与量(標準偏差)は4.9(1.3)mg/dayで、ハロペリドール注射群のハロペリドール注射液平均投与量(標準偏差)は16.1(7.0)mg/dayでした。ハロペリドール注射群はリスペリドン群と比べ有意に主剤CP換算量が高く、抗精神病薬の平均総CP換算量も有意に高いものでした(表1)。

表1 RIS群・HP注射群の抗精神病薬投与量

 そして、両群における行動制限及び投薬経路の適切性評価の得点を比較しました(図1)。拘束については、有意にまでは至りませんでしたがハロペリドール注射群の方が拘束の適切性得点が高い傾向を認め、同様な傾向が点滴においても認められました。内服説得することに関する適切性の得点は、リスペリドン群の方がハロペリドール注射群より有意に高いものでした。

RIS群・HP注射群における行動制限・投薬経路適切性の得点

3)まとめ

 この調査の結果から、スーパー救急病棟における精神運動興奮状態を呈する統合失調症の治療技法は、内服を説得して中等量のリスペリドンを投与する治療と拘束下で高用量のハロペリドール注射液を点滴などで静脈内投与する治療に大きく分けられることが推察されます。