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精神科における頓用薬使用の実態と今日の課題

神奈川県立精神医療センター芹香病院
藤田純一

はじめに

 我々は頭痛時、腹痛時、発熱時などに、比較的即効性のある薬を頓用薬として利用しています。これは西洋医学、東洋医学の分野を問わず、古くから用いられてきた症状緩和の方法であり、現在でもほとんどの診療科で用いている治療技法です。欧米では“頓用”を意味するものとして“As required”、“Pro re nata(ラテン語で必要に応じての意)” もしくは“p.r.n(pro re nataの略語)”という言葉が用いられています。これは、医師以外のスタッフもしくは患者さん自身が必要だと判断したときに、臨機応変に使用できる点から、注射剤などによる強制投与と自発的な経口投与の両方を包含する概念だと考えられます。一方、日本で頓用薬といえば、必要時にすぐに(=「頓」)飲める(=「服」)という意味で、頓服の経口薬の印象が強いのですが、ここでは混乱を避けるために“As required”もしくは“Pro re nata”という用語と、頓服の経口薬と強制注射などを含めた“頓用薬”という用語とを同義として扱うことにして話をすすめたいと思います。
 精神科における頓用薬について述べると、代表的には、「不穏時」や「不安時」に抗精神病薬や抗不安薬が、「不眠時」には睡眠薬が処方されるのが一般的です。普通、定期処方として出される薬が抗幻覚妄想作用や抗うつ作用を示すまでには、ある程度時間がかかります。患者さんの焦燥感や攻撃性が著しい場合や、精神的苦痛が強い場合に、医師が不在でもスタッフが即応できる点では頓用薬が存在は欠かせません。このような利点がある一方、呼吸抑制などの身体的副作用に加え、頓用薬への依存の問題や大量服薬など精神科特有の問題が存在することも事実です。精神科において、薬の頓用は日常的に使用され、疑問を持たれる機会も少ない治療技法なのですが、実用にあたって根拠となる調査報告は意外と少ないのです。例えば、2002年のコクラン・レビュー(文献1)では、その有用性や有害性を示唆するに足る質の高い研究は皆無であったと述べられています。また国内では依存症専門病棟の頓用薬使用に関する看護判断について、看護師6名への聞き取り調査(文献2)と大学病院の女子急性期病棟で使用された頓用薬に関する調査(文献3)がなされたのみで、一般精神科病院での調査は実施されていません。緊急時の対応として隔離拘束以上に頻用される方法であるがゆえに、今以上に注目されるべき事柄だと思われます。そこで、本稿ではこれまでの調査の結果をまとめた上で、今後の展望について考えたいと思います。