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熊本県有明医療圏域における認知症疾患地域連携のとりくみ
−認知症疾患クリニカルパスの運用へ向けて−

熊本大学大学院生命科学研究部
神経精神医学分野 石川智久

はじめに

 現在の本邦における認知症高齢者の増加は、多くの報道等により広く一般市民にも周知されてきた。厚生労働省研究班による調査により、認知症高齢者の実態は、予想をはるかに上回るスピードで深刻化していることが明らかとなっている。調査結果をもとに厚生労働省は、平成25年に認知症高齢者対策5か年計画(オレンジプラン)を発表した。今回のオレンジプランでは、
 1)住み慣れた土地で住み慣れた人たちとともに老後の時間を過ごすための地域での取り組みの強化
 2)かかりつけ医や専門医療機関だけではなく、医療・福祉・保健・介護といった、関連する他職種・
      多職種とのスムーズな情報共有システムの構築の強化
の2点が強調されている。
 熊本県では、平成20年から県行政や県精神科病院協会等の協力のもと、認知症高齢者の地域医療連携システムづくりが進められている。その中でも、県指定の認知症疾患医療センターを、「基幹型センター」と「地域拠点型センター」に役割分担させる方式は、 “熊本モデル”と称され、その後の認知症疾患医療センターの全国普及に向けた一つのモデルを示せたものと考えている。現在熊本県では、基幹型センターを1ヶ所、地域拠点型センターを計9ヶ所設置している。地域拠点型センターは、おおむね二次医療圏域ごとに設置されているので、その役割のひとつとして、より地域に密着した圏域独自の特色ある活動を行うことが期待されている。
 本稿では、地域拠点型センターの一つ、有明圏域地域拠点型センターを中心とした、熊本県有明圏域での活動について紹介する。

有明圏域地域拠点型認知症疾患医療センターのあらまし

 筆者は、熊本県の北西部の医療圏域である有明圏域に設置された認知症疾患医療センター(荒尾こころの郷病院内)(以下、疾患センター)にて、週1回の専門外来を担当している。有明圏域は、荒尾市・玉名市を中心に、周辺の長洲町・玉東町・和水町・南関町の2市4町からなり、当疾患センターのキャッチメントエリアは、有明圏域全体にわたっている。同院の常勤医師や圏域内のかかりつけ医は、認知症に関して専門ではないため、通常の外来診療や病棟診療におけるコンサルテーションなどを通して、認知症に対する基本的な診療や家族指導の在り方、マネージメントの在り方などを互いにディスカッションし、認知症診療への意識を高めていただいている。また、疾患センターの連携担当ソーシャルワーカーを中心に、包括支援センター保健師、介護支援推進員などの圏域の保健・医療・介護のスタッフなどと協働し、互いに地域の専門職のスキルアップを図る交流が進んでいる。

インフォーマルなシンクタンクの立ち上げ

 平成23年度、疾患センターで関わった患者・家族の様々なケースを通して、疾患センターとかかりつけ医、地域の総合病院身体科、地域包括支援センター、各々の居宅支援サービスなどのスタッフとすこしずつ関係が作られてくる中で、ひとつの大きな壁に当たった。それは、それぞれの既存の組織の中で動くことの「動きづらさ」である。いいかえれば、組織の「縦割り区分」の中で、フレキシブルに患者・家族に対応することの困難さが徐々に明らかとなってきた。幸い、有明圏域では、県が指定する疾患センターが設置されており、圏域内の各包括支援センターは市または町による行政直轄で運営されており、疾患センターに大学医師が関わっているという、いずれも公的組織が核となっていた。そこで、疾患センターを軸に、いわば「横並び」の関係づくりを模索することにした。
 平成24年夏から、疾患センター連携担当者の呼びかけに応じた各組織、各職種の現場スタッフが集まり、親睦を深めるとともに、とくに困難であった事例を検討する会を立ち上げ、お互いに顔の見える関係づくり、悩みを分かち合える「仲間づくり」を始めた。おおむね月に1回集まるごとに、賛同者は加速度的に増えていった。平成25年夏には、参加者は有明圏域全体に広がり、職種も、精神科医師、精神保健福祉士をはじめ、かかりつけ医師、歯科医師、薬剤師、保健師、看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、臨床心理士、介護支援専門員(ケアマネージャー)、福祉施設施設長、包括支援センター職員など、ほぼすべての医療・福祉関連の職種が一堂に会する会へと成長した。そして会の名称を、個性を持った住民の集まりを「森」に喩え、理想の森(=「有明之森」)構想を実現する会、という意味で、『有明之森構想 実行委員会』とした。

地域の仲間づくり

 この会は、公的な組織としての立ち位置ではない。おのおのの組織の中で日常の業務をこなすうえで、互いの組織を横断的につなげる、情報交換の場である。同時に、「実行委員会」が示す通り、互いにアイディアを出し合い、事例検討会や研修会の企画、講演会やフォーラムの企画を打ち出すインフォーマルなシンクタンクである。企画を実際に実行するのは既存の組織や行政なのであって、既存の組織や行政などを否定するものではなく、むしろ、それらを効率的に活用していこうとするコンセプトである。