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精神科病院における身体拘束・隔離に係る裁判事例と対応策

弁護士:外山 弘先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

「精神科」、「一般」、「介護施設」における解釈の違いとは?

―― 精神科医療における「身体拘束」と「隔離」に関する基本的な考え方について教えて下さい。

外山:  精神科病院では「身体拘束を行わずに隔離で対応すべき」との判例が出たケースもあり、「身体拘束」と「隔離」を分けて考えられていますが、広義で捉えると「隔離」も「身体拘束」の中に入る概念であることを認識して頂きたいと思います。「隔離」は「内側から患者本人の意思によって出ることが出来ない部屋の中へ一人だけ入室させることにより、当該患者を他の患者から遮断する行動の制限」のことで、「12時間を超えるものに限る」と明確に規定されています。「身体拘束」は「衣類または綿入り帯等を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限」を意味します。
 「隔離」に関して、精神科病院の場合は他害のリスクのある患者や、不衛生、問題行動のある人を隔離室に移す行為は通常行われていますから、人権尊重の観点からは「身体拘束」に比べ、法的責任が厳しく問われるわけではないのです。  ただ精神科病院と介護施設、一般病院とでは「身体拘束」についての考え方が微妙に異なります。例えば精神科の場合はベッドを柵や壁で囲む4点柵や壁際2点柵等は「隔離」や「身体拘束」にはなりませんが、介護施設では「身体拘束」とみなされます。介護施設の方が厳しい指針が存在するのです。

――  施設機能によって解釈が異なると言うのは、どういうことでしょうか?

外山: 要するに精神科病院の場合は、精神保健福祉法「第36条3項」により「身体拘束」に関する条文があり、その根拠規定が示されています。介護施設の場合、法令規定はないのですが、厚生労働省が平成13年に「身体拘束ゼロへの手引き」を発行し、現在、数多くの介護施設で遵守すべきガイドラインとして活用されています。「身体拘束ゼロ」を目指しているだけに非常に厳格な内容で、その結果、介護現場における「身体拘束」事例は顕著に減少しました。一般病院には「身体拘束」に係る法令がなく、公的な指針もないので、今後、認知症の合併症入院患者の急増が予想される中で課題を残しています。

身体拘束に対する考え方の違いに注意

―― 一般病院は「身体拘束」に対する法的責任が曖昧なので、認知症患者に対して病棟で看護師らが、対応に苦慮するケースも出て来るでしょうね。

外山: 実際に病院機能評価統合版評価項目Ver.6.0の文言を見ても、精神科病棟と一般病棟との違いが分かると思います。精神科は「1時間に4回以上の頻回の観察記録がある」とか、「行動制限最小化委員会が開催されている」等、極めて具体的で、精緻な内容になっています。それに比べると一般病棟は、そこまで厳格、かつ具体的には明文化されていません。

病院機能評価 【一般病院】
   5.4.8 安全確保のための身体抑制が適切に行われている
    5.4.8.1 安全確保のための身体抑制の必要性が適切に評価されている。
      ① 身体抑制の適用基準と実施手順が明確である
      ② 必要性が適切に評価されている
    5.4.8.2 身体抑制を実施する際は、十分な説明が行われ、同意が得られている
      ① 必要性とリスクなどについて説明がなされている
      ② 身体抑制についての同意が得られている
      ③ 患者・家族の不安を軽減するように説明され、記録されている
    5.4.8.3 身体抑制が確実・安全に実施されている
      ① 適用・解除を含め、医師の指示に基づいて実施している
      ② 身体抑制中の患者の状態・反応を観察している
      ③ 抑制の回避・軽減・解除に向けた取り組みがある

病院機能評価 【精神科】
   7.2.3 身体拘束が適切に行われている
    7.2.3.1 身体拘束の方法が整備されている
      ① 抑制帯使用マニュアルがある
      ② 抑制具は必要時使用できるよう整備されている
    7.2.3.2 身体拘束が適切に行われている
      ① 身体拘束に関する基本的な方針や手順が明文化され、周知されている
      ② 医師による頻回な診察が行われている
      ③ 頻回(1 時間に 4 回以上)な観察記録がある
      ④ 必要性の確認が医師を含む医療チームにより行われている
      ⑤ 身体面の全身管理、抑制具による循環障害の有無の確認が行われている
      ⑥ 心理的状態への把握がなされている
    7.2.3.3 身体拘束を減らす取り組みが行われている
      ① 身体拘束実施に関するモニタリングが行われ、その結果は治療スタッフへ
         フィードバックされている
      ② 治療スタッフに身体拘束に関する教育・研修が行われている
      ③ 身体拘束を減少させるため実施中の患者に関する多職種のカンファレンス
         が頻回に開催されている
      ④ 行動制限最小化委員会が開催され、委員会での検討に基づいて身体拘束
         を減らした事例を蓄積している

――  確かに一般病棟での文言は、微妙に「身体拘束」という表現は避け、「身体抑制」という言葉が使われ、内容も一般論で終始しており違いが分かります。法令規定がないので仕方がないとも思うのですが、診療報酬で「認知症ケア加算」が新設され、一般病院でも認知症の人の入院を数多く引き受ける時代を迎え、改善が必要になるかもしれませんね。