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感覚調整室(Sensory Modulation Room)−リラックスルームの実践−

国立精神・神経医療研究センター 病院
作業療法士 山野真弓・石塚裕大

はじめに

 従来、精神科の病棟では興奮状態や不穏状態への対処として、隔離や身体拘束が用いられている。病棟の保護室はそのための設備であり、その利用が必要な時がある。保護室は、耐破壊性能をもち、自殺企図防止を目的として作られており、シンプルなつくりになっている。保護室を利用することによって対人刺激や感覚刺激から遮断し、静穏に繋がるとも考えられている。
 しかし臨床現場では、そこに至るまでに取るべき対策があったのではないかと考えさせられる場面もある。また退院後の生活を考えた際に、自らディエスカレーションの方法を選択し実行できることが、主体的な治療継続や本人の希望する生活を送る上で大きな意味を持つ。さらに、周囲の環境からの刺激を完全に遮断した空間のみが静穏効果につながるのか、今一度考えてみる必要がある。海外では興奮や不穏状態に際して、感覚刺激を取り入れた「感覚調整室(Sensory Modulation Room)」を利用してリラクゼーションを図る手法がとられることがある。日本の精神科領域においてはまだ馴染みのない感覚調整室を、国立精神・神経医療研究センター病院 医療観察法病棟では平成22年4月より導入し利用している。今回、感覚調整室の分類、歴史、海外での実践、及び当病棟での導入経緯や実践症例について紹介する。

感覚調整室としてのスヌーズレン(Snoezelen)・センソリールーム(sensory room) ・コンフォートルーム(comfort room)について

 感覚調整室には、スヌーズレン、センソリールーム、コンフォートルーム等の様々な名称をもつものが含まれている。コンフォートルームを総称としてその中にセンソリールームやスヌーズレンが含まれるというものや、センソリールームのなかにスヌーズレンやコンフォートルームが入るというものなど様々な考え方がある。これらの共通点としては、感覚刺激を取り入れてリラックスできる環境を利用するという点、また使用者の意思によって利用され、隔離・身体拘束、また罰や報酬のために使用されることがない点である。各々、歴史的背景の違いや、治療法として考えているのか、自発性を重んじているのかの違いがある。また同じ名称でも利用目的によっては全く異なった部屋のようにみえるものもある。
 スヌーズレンは、1970年代の半ばからオランダの知的障害を持つ人々が住む施設、ハルテンベルグセンターで生まれた活動とその理念から始まっており、現在では日本においてもその歴史的背景や海外の実践の様子が紹介されるようになってきている(文献1)。スヌーズレンという言葉は、香りを嗅ぐ「スヌーフェレン」とウトウトくつろぐ状態を示す「ドーゼレン」という言葉からつくられた造語である。どんなに障害が重い人たちでも楽しめるように、光、音、におい、振動、温度、触覚の素材等を組み合わせたトータルリラグゼーションの環境として考えだされた。そして次第にヨーロッパ本土、イギリス、アジア各国、アメリカ、カナダ、世界中の国々にも広く理念と活動が浸透した。特にヨーロッパでは知的障害の分野だけではなく、小児病院をはじめ認知症や、精神病院、普通幼稚園、さらには町のコミュニティセンターなどにも広がりをみせている。スヌーズレンは、治療法でも、教育法でもなく、どんな人でもありのままの自分が受け止められ、自分で選び、自分のペースで楽しむための環境として考えられている。
 一方、センソリールームは、感覚調整技法の道具として用いられるものである。感覚調整技法は、1950年代にJean Ayresによって開発された感覚統合理論Sensory Integration(S.I)から発展してきている。感覚統合理論は、子どもの学習、行動、情緒あるいは社会性の発達を脳における感覚間の統合という視点から構築されている(文献2)。感覚調整技法は、さらに覚醒や感覚調整という考え方を含め、アセスメントに基づいた適切な感覚刺激の入力によって、覚醒レベルの調整及び静穏化を実施する侵襲性の極めて低い治療法である。感覚刺激に対する生体反応をアセスメントすることによって、感覚刺激を多様に段階付け、患者の特性に応じて適切な感覚刺激の量や質を決定している。アメリカでは、Brown(文献3)らによって小児領域だけではなく、青少年の感覚プロフィールの評価法も確立している。また、その後、自分自身の対処法として身につけていくことを目的としている。多くのセンソリールームはセラピストによる評価やセッションが必要である。
 コンフォートルームは、自分自身の行動や感情のコントロールを失いかけていると自分が認識した際に静穏を目的として個人で使用するために作られた空間である。オランダでは、興奮不隠時の隔離使用の代替手技として、コンフォートルームを利用のうえ、看護師によるディエスカレーションが行われ、興奮不隠に至った振り返りを患者、看護師で協働で行うという介入がすすめられている(文献4)。

Six Core Strategiesの手法の一つとして

 欧米諸国では、Champagneらの報告(文献5,6)にもあるように、精神科領域において感覚刺激の量や質をコントロールすることによって静穏化を図る感覚調整技法が、薬物による鎮静や行動制限の代替治療として活発に行われている。アメリカの全米州精神保健局長協議会(NASMHPD:National Association of Mental Health Program Directors)によって運営されているNTAC(National Technical Assistance Center)は隔離・身体拘束最小化のための「隔離・身体拘束使用防止のための6つのコア戦略(Six Core Strategies to Reduce The Use of Seclusion and Restraint、 Planning Tool)」(文献7,8)を発表しており、そのツールのひとつとしてコンフォートルームやセンソリールームの整備が隔離・身体拘束使用防止のための施設環境の工夫としてあげられている。
 例えば、ニューヨーク州精神保健局(New York State Office of Mental Health)は「Comfort Rooms(A Preventative Tool Used to Reduce the Use of Restraint and Seclusion in Facilities that Serve Individuals With Mental Illness)」(文献9)というテキストを出して、コンフォートルームの目的や使用方法について、またニューヨーク州の病院のコンフォートルームやスヌーズレンルーム実践の様子やその効果を詳しく説明している。その中の一例として、Great Binghamton Health Centerのスヌーズレンルームの取り組みを紹介している。Great Binghamton Health Centerでは、児童・思春期ユニットにスヌーズレンルームを2006年12月より設置し、2007年1月〜2008年3月までの間のスヌーズレンルーム使用のセッションの回数と隔離のエピソードの関連を調べている。その結果、スヌーズレンルームの使用が隔離の回数を減少させ、2008年3月には隔離が0になったと報告している。