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行動制限の最小化に向けた取り組み
   包括的暴力防止プログラムにおけるディブリーフィングの実際

国立精神・神経医療研究センター病院 山口 しげ子

はじめに

 行動制限はできるだけ最小化したいものの、精神科では避けて通れない、やむを得ないという側面もあります。しかしその一方、患者の暴力リスクが高まりそうな時期を捉えた早期からの介入や、暴力発生後の丁寧なフォローは、スタッフのみならず患者自身の力を育み、結果として行動制限の最小化につながると考えています。
 包括的暴力防止プログラム(Comprehensive Violence Prevention and Protection Programme:CVPPP)では、暴力発生後のフォローとして暴力を受けた者はもちろんの事、暴力を起こした患者をもディブリーフィングの対象としています。
 そこでこのページでは、国立精神・神経医療研究センター病院における実践から、暴力を起こした患者へのディブリーフィングの実際を、重点的に御紹介しようと思います。

ディブリーフィングの有効性について

 現在では単回開催の心理学的ディブリーフィング(psychological debriefing:PD)はPTSDの予防としては否定的な報告もあります。しかしながら、同一の衝撃的体験を受けたグループでは、急性ストレス反応の低減や、仲間意識の回復、職場内の健康度の回復等の効果が得られ、早期のグループによる介入は有効であるともいわれています。
 また、インフォーマル・ディブリーフィング(ナチュラル・ディブリーフィングと同義) は、本人自身が安心できる環境で、同僚同士や家族と自然発生的に災害(被害)体験を語ることですが、その後の精神的影響を緩和する効果があるといわれています。
 体験を話す機会の乏しい人は、メンタルヘルス上のハイリスク群であるということが、阪神・淡路大震災後に兵庫県内の消防署員4800人を対象に行った調査において報告されています(加藤ら 1999)
<ディブリーフィングの歴史的背景等は「参考文献」をご覧ください。>

CVPPPの中のディブリーフィングに託した思い

 通常のディブリーフィングでは、被害者や被害者を支援する立場の人を対象としていますが、CVPPPの中でのディブリーフィングは、暴力を起こした患者にまでも対象を広げた点が特徴であり、臨床においても実践しています。
 CVPPPの中のディブリーフィングにおいて、暴力の当事者の患者も含めた背景には、「暴力を起こせば患者自身が、大きな不利益(物理的・身体的な不利益、社会的な不利益)を受けることになるので、患者自身に暴力を防ぐ・起こさないすべを身につけてもらい、患者の不利益を少なくしたい。」という思いがこめられています。

暴力の当事者自身も傷つくのだろうか?

 暴力被害を受けた人が傷つくのは当然だと誰もが考えますが、往々にして暴力を起こした患者自身も実は傷ついている事は見落とされがちです。それは「自分がまいた種なのに、暴力をふるった上に自分が傷ついたなんて何を言っているのだろう。」と、スタッフ側に陰性感情が湧き困惑することもあり、患者の『傷ついた』という言葉の意味をあえて深めようとしない、余裕がなくて深められないという状況に陥ったりするからだと思います。
 受け止め方を変える事ができると、患者が暴力によらない人生を自ら決定するための良い介入のチャンスになります。私たちが暴力を起こした患者の傷ついた気持に寄り添う事によって、暴力の前のいきさつやその時の思いを自ら語りだします。そしてその患者の言葉を手掛かりとして、暴力を防ぐという次の段階に進む事ができます。
 その一方『自分だって傷ついた』等の言葉や態度によって、私たち医療者は患者の気持ちを受容する以前に、暴力を受けた人の気持ちを思い、葛藤や憤りを感じ、無力感におそわれたりします。患者の暴力があったという事実やその後の関わりの中で、スタッフも二次的な被害を受けて、こころが消耗することもあるのだ。ということを再認識しておくとよいと思います。

包括的な暴力の再発防止に向けた取り組み

 暴力を起こした患者へのディブリーフィングは、患者が本当は何を伝えたかったのかを導き出して、暴力以外のどういう対処をとればよかったのかを一緒に見つけていく過程であるので、単に謝罪ができる様にする事や、反省を求める事が目的ではありません。その後の暴力によらない対処方法を獲得するために、その患者の知的理解の程度や、怒り等の感情のコントロール状況にも配慮した中で、繰り返し実施していきます。
 病棟で実施されているディブリーフィングの多くは、暴力を起こした患者と患者の担当スタッフを含めた3〜5人で、ゆっくり時間を取って話し合います。それには患者本人が安心して話す事ができるように場を整えることが前提となります。さらに、患者に寄り添う立場の担当スタッフとは別の客観的な視点を持つ立場として、病棟の医長や看護師長等が話し合いの構成メンバーに加わる場合もあります。
 これらのディブリーフィングが効果を上げるための大前提として、病棟では日々のミーティング等で患者とスタッフが共に考える関わり方を通して、スタッフが日常的に公平性のある立ち位置を作り出せるような工夫をしています。