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フィンランド精神科急性期医療における隔離・身体拘束

急性期入院医療に至るまで

入院を必要とする急性期精神症状をもつ患者が、より重症に至らず、いかに早期に入院できるかによって、急性期入院医療でのS/R使用が変わってくると言われている(文献10)。 フィンランドでは非同意入院を要する患者が、どのように精神科急性期病棟に搬送されるのかを理解するために、地方自治体の医療センターを訪れた。フィンランドの場合は、患者が直接に精神科病院に行くことはない。必ずプライマリー医(時に外来精神科医)の診断書をもって事前に連絡の上で精神科病院に観察入院となるからである。非同意入院を要する患者の急性期病棟へのアクセスを理解するために、まず医療圏について、次にプライマリーケアと外来精神科医療の専門性と受診にいたるアクセスについて説明する。
 まずは、フィンランドの精神科医療を理解する上で、医療圏を説明する。フィンランドには6つの州があり、その中に20の県、さらに400を超える地方自治体がある。ここでは見学することができた、首都ヘルシンキを含むウーシマー県の医療圏を説明する。ウーシマー県には31の地方自治体からなり、地方自治体がいくつか合わさって5つのhospital areaを作っている。1つの地方自治体に1つの医療センターとポリクリニックがある。 1つから数個の地方自治体で1つの精神科外来クリニック、デイホスピタルとリハビリテーションセンタがある。 そして1つのhospital areaに精神科病院1ヶ所となっている。これらは全額国負担である。見学することができたウーシマー県ヒュビンカーhospital area の医療施設を例に医療圏の人口を述べる。ヒュビンカーhospital area内のヤルベンパー自治体の医療センターはその自治体の人口3万7000を担当する。ヤルベンパー自治体と近接した2つの自治体に1つある精神科外来クリニックは人口約9万を担当する。ヒュビンカーhospital areaにあるケッロコスキ病院は人口17万4000を担当する。
 これらとは別にプライベートクリニックがあり居住地にはよらず、自ら予約をして受診できる精神科外来診療があるが。プライベートクリニックの医療費は一部自己負担となる。
 各部門の対応疾患と外来患者の流れを説明する(図1)。医療センターとポリクリニックはプライマリー医が診療にあたる。医療センターには予約で診療を行う部門と救急部門に分かれている。そのトリアージは看護師が行っている。医療センターでは不安障害、身体表現性障害、軽症うつ病を守備範囲としている(表3)(文献11)。ポリクリニックは中等症のうつ病と薬物依存を対象とし精神科看護師をおき、訪問看護やグループ治療を行っている。ここまでで精神疾患の9割の診療にあたっている。 患者がプライマリーケアの守備範囲を超えた場合は、精神科外来クリニックへの紹介となる。患者が直接、精神科外来クリニックを受診することはない。
 そして精神科外来クリニックでは、精神科医による重症うつ病、躁うつ病、統合失調症の診療と、精神科看護師による訪問看護を行っている。デイホスピタルでは統合失調症の、リハビリテーションセンタでは気分障害のデイケアを行っている。 そして、精神科病院は入院治療を専門とし、外来診療は行っていない。

図1 精神科診療に関わる施設と外来診療を要する患者の流れ

精神科診療に関わる施設と外来診療を要する患者の流れ

 医療圏と各施設について述べたので、次に、非同意入院のアクセスを説明する。アクセスはシンプルであり、大半は医療センター救急部門を経由して精神科急性期病棟に観察入院となる(図2)。医療センター、ポリクリニック、精神科外来クリニックの診療は全て予約制であり、これらの施設ではその患者が通院治療中であったとしても救急対応はしない。救急時は医療センター救急部門が診療にあたる。
 では具体的な場面を説明する。多くの非同意入院に至る患者の経過は、まず家族や周囲の人が救急車を要請することから開始される。救急隊は医療センター救急部門に搬送する。しかしこの過程で本人の拒否があった場合、警察が要請される。精神保健法において警察は精神疾患の搬送に協力するよう位置づけられている。医療センター救急部門ではプライマリー医が診察し(表4)(文献11)、また精神疾患に関する受診歴があれば情報を収集する。プライマリー医が精神科病院での観察入院が必要と判断した場合は、診断書を作成し、精神科病院に搬送となる。プライマリー医、医療センタースタッフ、救急隊員ともに拒否する患者に触れることはできず、強制治療も行えない。従って、医療センターではS/Rまた強制的な筋注・静注による鎮静は行うことはできない。興奮が強く暴力の危険がある場合は警察が徒手で保護する。精神障害におけるS/R、強制的投薬は精神科病院に観察入院してから行われる。ヤルペンバー自治体の医療センターに勤務するプライマリー医に尋ねたところ、非同意入院は月3回程度、警察が徒手で保護する必要が生じるのは年に数回とのことであった。

図2 非同意入院を要する患者の流れ

非同意入院を要する患者の流れ

 日本の場合、入院を担当する精神科医師は入院→外来と一貫して主治医として関わっていることが多い。フィンランドでは、プライマリー医、外来精神科医。入院担当精神科医の役割と専門性が明確に分かれており、それぞれの施設において多職種のチームとして関わることに重点を置いている。患者は、状態によって施設を変更することになる。一貫性の維持と、状態に応じた専門性の高いチーム医療の展開とをバランスよく行うことが望ましい姿であろう。
 3万4000の人口でハードな搬送を要することが年に数回という頻度を、日本にあてはめて比較することは困難ではある。ただ、ポリクリニック、精神科外来クリニックで積極的に訪問看護が行われていることで、地域での重症化、緊急性の回避を担えているかもしれない。また、身体疾患と同様に救急隊を要請すれば緊急時に精神科医療にアクセスできる仕組みを一般住民が理解していることで、初期対応が迅速に行われているかもしれない。地域で治療の遅れから生じる重症化や緊急性を回避することによって、精神科救急入院医療が変化していく可能性について検討していく必要がある。

表3 医療センター プライマリー医の精神障害に対する役割(文献11)
全般

普段も医療センターでプライマリー医は向精神薬投与をしなければならない。不安や睡眠障害に苦しむ患者は毎日訪れる。また急性の危機状態に対しては救急処置として薬物療法を施す。その後で次に薬物治療を引き継ぐ医師を指名しなければならない。プライマリー医は向精神薬全般について専門的に十分に学んでいるわけではない。睡眠導入剤、抗うつ剤、抗不安剤などのある種類のいくつかの薬剤が扱えれば良い。プライマリー医がもし、向精神薬の機制や相互作用に精通していなければ、基本的前提として精神科医と互いに協力し合うことに留意する。

専門医のコンサルタントが必要となる場合

もし薬物療法が無効なら。
もし患者に緊急を要する、または激しい副作用が出たら。
もし患者が通常の服用の範疇で持ちこたえられないなら。
もし適切な薬物治療の選択が難しいなら。例えば身体疾患のためなど。
もし使用中の薬物治療が複雑であるなら。

ストレスや軋轢に関連した精神症状を対象に精神療法を行う

家族や友人を失ったあとの不安や悲しみ
自身や家族の病気の発症
家族に起こった著しい変化
環境の変化
経済的な困窮
失職


表4 医療センター プライマリー医による急性精神病への対応(文献11)
急性精神病の症状評価

障害のレベルはどうか。精神病か、より軽度な障害か。
背景に器質的要因はあるか否か。
入院治療が必要か否か。
非同意入院が必要か否か。

急性精神病の治療に対する基本的判断

入院か否か。
精神科外来医療チームの利用が可能か。
向精神薬は必要か否か。もし必要なら例えばハロペリドール4−10mg/日(2.5-5mg筋注)を処方する。
家族はどれだけ協力できるか。