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フィンランド精神科急性期医療における隔離・身体拘束

国立精神・神経センター 精神保健研究所 社会精神保健部 野田寿恵
すがのクリニック 白木澤史子

はじめに

 フィンランドでは、1996年に精神科病棟における隔離・身体拘束(以下S/Rと記載)に関する大規模調査がSTAKES(National Research and Development Center for Welfare and Health)の支援のもと行われた(文献1)。この調査は,地域によってS/Rの用いられ方が違うのではないかという問題が,精神障害者の人権擁護に関わる法律家から提起されたことが契機となって行われた。またフィンランドでは他のヨーロッパ諸国よりS/Rを多く使用しているのではないかと懸念されていたことや、長期に精神科病院に入院していた患者の急速な脱施設化が進んできた中で精神科急性期治療の質向上が問われたことも背景にあった。
 S/Rへの問題意識をもち調査をすすめ、S/Rに関する医療の質向上に務めているフィンランドに2006年夏より3回に渡り訪問することができた。精神科病院の見学では,S/Rを中心に看護ケア、チーム医療、研修制度、法制度について話しを聞くことができた。また急性期の入院精神科医療へのアクセスを知るために、外来精神科クリニックや医療センターを訪ねた。それら施設のもつ地域医療での役割と、急性期患者の精神科病院へのアクセスについて話しを聞くことができた。
 他国のS/Rの現状を知ることで、日本の特徴を理解することができる。今回のまとめを、その一助としたい。

フィンランドの概要 ―人口、言語民族、気候、歴史、経済、医療福祉政策

 まずはフィンランドの概要を述べる(文献2,3)
 フィンランドは、日本の90%の国土面積に、人口は520万人、日本(日本1億2780万人)の24分の1が暮らす国である。言語はフィンランド語93%、スウェーデン語6%で、この2つを公用語とし、民族はフィンランド人93%、スウェーデン人6%である。国土は高緯度に位置し、夏の白夜、冬の低い太陽、豊かな森と湖、そして冬の厳しい自然が特徴である。
 さて、フィンランドは独立して100年に満たない国家である。12世紀の頃よりスウェーデン王国領としてスウェーデンの支配下にあったが、18世紀にスウェーデン王国がロシア帝国に敗戦したことから、フィンランドはロシアに割譲された。その後、民族主義の高まりの中、1917年、ロシア革命の混乱に乗じてフィンランドは独立した。第二次世界大戦ではソ連と対抗するためにドイツ側につき、敗戦国として終戦を向かえた。終戦後は、ソ連への多額の賠償金を返済しながらも、ソ連、東ドイツ、西ドイツ、西ヨーロッパとの中立的な関係を維持し、東西冷戦時代に両陣営とのバランスを保ち、経済発展を遂げた。
 フィンランドは石油や天然ガス、鉱物資源に乏しい国土である。終戦後は豊かな森林資源をもとに経済復興を図った後に、ハイテク産業を基幹とする工業国となり、現在、国際経済競争力は上位を維持している。その背景の1つとして教育制度の充実があり、OECD(世界協力開発機構:Organization for Economic Co-operation and Development)のPISA(学習到達度調査:Programme for International Student Assessment)では世界一位をほこっている。
 医療福祉政策においては、戦後は福祉国家として未発達であったが、経済復興が進む中、1970年代よりGNPに占める社会保障福祉への支出を増加させ、福祉国家として高い水準に到達した。1972年、地方自治体にプライマリーケアの設置が義務づけられ、現在のプライマリーケアと専門医療の二段階の医療供給体制ができあがった。そして1984年に包括的な社会福祉法が施行され、ここでコミュニティケアへの置き換えが明確に示された。1990年に入ってソ連崩壊による打撃にて不景気に陥り、社会福祉政策の修正を迫られたが、福祉重視の基本は変わらず現在に至っている。

1(07.11.09)