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『ひきこもり』から『労働者』へ−小さなNPO法人の挑戦の記録

石神 文子(財団法人 石神紀念医学研究所・特定非営利活動法人 大阪虹の会)

はじめに

 さる平成22年6月、特定非営利活動法人大阪虹の会(以下、「NPO法人大阪虹の会」と称す)は、大阪府の公募事業である「重点分野緊急雇用対策基金委託事業」を受託し、10ヶ月にわたり地域力による「ひきこもり・ニート・その他の障がい者」の自立支援事業に全力を挙げて取り組んできました。
 当NPO法人は平成20年に成立、それまで約5年間の任意団体としての活動を基礎に、法人化しました。(その経緯については本講座  第9回「障害者自立支援法」下の地域福祉〜障害者の暮らしを護るために  をご参照ください。)
 これはわずか2年の活動を土台に、小さなNPO法人が総額ほぼ2,800万円という巨額の委託金を受託し、「ひきこもりから労働者へ」を目指して突き進んだ、若者とその家族の挑戦の記録です。

『重点分野緊急対策基金委託事業』の趣旨

 大阪府の委託事業の目的は、厳しい雇用・失業情勢を受けニート等若年者の雇用機会を創出するため、「社会企業家活用型ニート対策プロジェクト」の実施、つまりNPO法人などにより「社会の課題を事業により解決する」ことです。
 事業には4分野あり、その中で当法人は「地域力によるニート自立化事業(NPO活用型)」に応募しました。
 この事業はこれまでの数年間の活動では全く得られなかった公的資金を獲得するチャンスであると同時に、『虹の会』にささやかな期待をもち始めていた数人のひきこもり脱出青年と、その家族にとって何らかの希望になっていきました。

NPO法人大阪虹の会の企画・提案の概要

  コミュニティが必要としていて、ニート状態の若者にとって就業可能な仕事とは何か。かなり悩みながらも組織内部での話し合いの中から、幾つかのテーマが得られました。またこの時参考になったのは、かつて筆者が体験した精神障がい者への就労支援の原則のことです。
 それは服薬しながらの就業であることや、社会生活体験の不足、労働に必要な体力が失われていることから、まず(1)就労時間と回数を考慮することで、基本的には週3回・各3時間以内から始める、(2)仕事の種類を多くし、若者たちがその日、その場面で選択ができるようにすること、(3)ジョブコーチをつけることで、就業体験の少なさ、中でも対人接触が希薄なために自己表現が極めて不十分で、しばしば“人間関係”のつまずきに配慮が必要だからです。
 これらの観点を大切にしながら、ひきこもりを含むニートやその他の障害がい者の自立支援の基本的な考え方を示しました。

企画・提案名『多様な生活障害に対応できるバラエティに富んだ事業の構築と、就業者の 生活及び就業継続支援のあり方について』

[基本的な考え方]

 ひきこもり状態にあるものを含むニート対策では、支援者は基本的に対象個別化と就業への多様な過程を理解し、それらの認識を日常的に深めていかなければならない。
 ひきこもりについては、対象(当事者)は本来社会恐怖症的要素が強く、多くのものが不登校を起点として思春期前半からひきこもり状態に陥ることが多い。従って、多くが就業体験を有せず、仮にアルバイトなど、時々の就業においても常に対人関係に緊張し就業を放棄する結果となっている。そのために再就業には自信を失っており、時間の経過に伴い気力・体力ともに一層の低下をもたらす。
 これらの過程で家族の一員としての対象の位置は、心理的・経済的に親への依存を生み出し、時に双方の確執が高まることもあり、最悪の場合は長期にひきこもる状態に陥ってしまい、就業を含む社会生活とは乖離してしまう。
 この状態に陥った対象とその家族の問題解決には、最早第三者の介入によるしかないと考えられる。家族が支援機関や団体を訪れ、ようやく問題の解消にその兆しを見つけることができる。
 NPO法人による支援としては、家族への個別相談や当事者集団の学習・交流、NPO組織による制度や資源づくりへの参加、地域社会への啓発活動などがますます必要となる。次に対象との個別・集団との対峙、対象同士の交流や作業所(居場所)などを整える必要がある。
 これらの活動の過程で、対象者たちは次第に対人関係での緊張感を軽減し、軽度かつ短期間就業の体験を重ねることや、就業の対価によって自立への意欲を高めることができると考えられる。

[事業内容−5つのコミュニティ・ビジネス]
1)「なんでも教室」(生涯学習ルーム)の開設・運営事業
パソコン教室・絵画教室・ビックリ手芸教室・食育教室など。
2)喫茶&フリースペース『虹』の開店・運営事業
おいしいコーヒーと憩いの場の提供。ニートやひきこもりの仲間や家族、近隣の方々が自由に参加できるフリースペースにする。
3)フリーマーケット&ガレージセールへの出店事業
支援者の協力を得て無農薬野菜、手作り漬物、手作りグッズなどを集荷し、フリーマーケットやガレージセールを行う。
4)おこまり高齢者へのコミュニティサービスの提供事業
  ・ 介護保険によるサービスとは別に、きめ細かいサービスを提供する。
     (庭掃除、草取り、買い物、飼い犬の散歩など)
  ・ その他、おこまり高齢者の要望事項への対応。
5)人材派遣事業
パソコンや写真撮影などの、一定の技術を必要とする業務に関するスタッフの派遣。
  ・ パソコンの操作援助
  ・ デジタル写真での撮影、および撮影方法のアドバイス
  ・ 清掃業務
  ・ コピーや発送などの事務補助業務
  ・ その他、顧客のニーズに合わせて新規事業拡大を進める。
この計画が実施されると同時に「有機農業体験事業:栽培と野菜の直売活動」が加わり、フリーマーケットでの業務として継続しています。
[支援者と作業員(雇用された対象)数]

 この事業では有給の支援者は企画員1人とコーディネーター1人、ハローワークを通して正式に雇用される作業員9人の予定でスタートしています。また予算的には約70%が作業員の給料に充てることになって、作業員の給料は時給1,000円で算定されました。