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第10回『エンパワーメントを生み出す精神障害者の在宅支援』

 大阪府枚方市、その中央にある京阪電車枚方市駅を降りてタクシーに乗りました。今から訪ねる精神障害者小規模授産施設「ぱうんどケーキ村」への順路が分かりにくいからです。この街は人口約40万人を擁する、大阪府下でも大都市のひとつです。
 「あそこですよ」と運転手の声、開店にまだ少し時間のある店の玄関は閉まっていますが、ガラス越しに白衣のユニホームに身を包んだパン職人たちが、忙しく動いているのが見えました。挨拶しながら店内に入ると、フワーッとした焼きたてのパンの匂いに包まれました。職人たちは耳当のついた帽子と上着を着け、黙々と作業に勤しんでいます。看板どおり、パウンドケーキとクッキーから始めて11年、今では数種のパンも上々の味で、入気を博している施設です。今日は新らしい利用者や実習生もいないらしく、落ち着いた日常の風景が見られるようです。

ぱうんどケーキ村
『ぱうんどケーキ村』
ぱうんどケーキ村 作業風景

◎生活支援なしには、精神障害者の生活は維持できない

 精神障害者の生活障害(生活のしづらさ)に対する、生活支援のありかたが論じられて久しい。近年は幸い社会復帰施設の設置がこれまでになく進んだことで、机上の空論では なく、精神障害者やその家族の地域生活支援が、地域の社会復帰資源で実践されるように なってきたからだと思います。
 しかしこの小さな流れも、今少し大きな潮流に育つ間もなく、2006(H18)年の障害者自立支援法の制定によって大混乱に陥ってしまいました。その後多くの障害者団体が霞ヶ関に訴えようと行動したことや、関連専門誌ではこの法のことがさまざまに解説され、この法下の障害者福祉が論じ続けられています。要はどんなに「論」が続けられても、先立つものが無くなる不安が現実化することや、アメとムチで障害者を手玉に取ろうとしているのではと疑わざるを得ない怪しさを否定できません。
 精神障害者にとってこの法の“効用”は、障害者の一員として“登録"されたかのように、三障害を同じに処遇することになったことでしょう。しかしそれとても、十分に当事者間のコンセンサスを得た結果ではなく、バタバタと決まってしまったのですから、今後就労支援の側面などでは、他障害との兼ね合わせにさまざまな軋轢が予測されるところです。
 それでも精神障害者の苦しい生活は厳然としてあるのです。支援者はその支援を放棄す ることはできません。私はむしろ困難だからこそ原点に返らなければならないのではと思うのです。厳しく言うと、改めて「補助金の分だけの福祉支援」ではできない時代に入ったのです、かつて制度も施設も無かった時のように。
 精神障害者に医療しか考えられなかった過去に、精神障害者の生活実態から目を反らさず、勇敢にもその課題に対峙し、道を切り開いて来た精神保健福祉の先駆者たちがいたことを思い出してほしいのです。