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第5回"姫軍団"の指揮をとったDさん

"姫"の担ぎ方

 その日、"姫"のためのネットワーク会議は緊迫していました。「ヤクルトとジュース460円」と鉛筆で書かれたメモを囲んで、溜息が漏れました。メモは毎日"姫"が開場と同時に入る銭湯の番台さんから届いたもので、謂わば"姫"の違反を示すものでした。

 会議の参加者は、福祉事務所のケースワーカーさん、精神病院の"姫"担当看護師さん、保健所内で頻繁にDさんと顔を合わせる「障害児をもつ親の会」の会長さん、そして私を含む保健所の3人でした。

 やはり在宅は無理か。既に3か月ばかり、専任のH相談員が付きっきりになって、新米ながらミニ・ブルドーザーのようなDさんに良く対応していましたし、S保健師もまた、地区担当にもかかわらず、Dさんに相当な時間を割いていました。しかし、その支援がDさんの生活につながっているのだろうかと、私はふと不安になることがありました。

 会議の場では、各々の見解が述べられました。「福祉施設へ。」と福祉事務所のケースワーカーさん。Dさんが転々とした婦人相談所のことです。「入院を。」と精神病院の看護師さん。"飛び降り未遂事件"のことが頭にあったのでしょうか。

 それは、保健所の相談室で主治医でもある嘱託医とH相談員がDさんと話をしていたときに、何がきっかけだったのか、突然Dさんが「飛び降りたる!」と叫んで保健所の屋上まで階段を駆け上がり、後の2人が追いかけてきたのを確認したうえで、屋上の手摺に足を掛けたという事件でした。

 保健所の私たちの意見は、Dさんの健康な部分をもっと広げられるのではないかということでした。それまで何年間も婦人相談所や精神病院を利用していますが、Dさんの課題は解消されていませんでした。一方、その頃ご近所との交流が芽生え始めていたことは、大切な変化だと思いました。例えば、銭湯へ連れ立って行くとか、同じアパートの独り暮らしのおばさんが頼まれて作っているお弁当の配達を手伝っているとか、アパートの前を掃いていたとか。Dさんなりに、みんなと一緒に過ごしたい、仲間をつくりたいと願っていたのです。

 結局、「このままで。」という保健所の意見を受け入れてもらいました。そう言った限りは、保健所が地域関係機関のコーディネーター役として、上手に担ぐ"姫軍団"として、ますますDさんへの支援に力を入れなければなりません。

 そんな話し合いをしているところへ、突然Dさん本人が登場しました。たまたま保健所へ来て、雰囲気を察して入って来たのでしょう。咄嗟に私は、その会議の結論をDさんに告げました。「あなたに渡すお金の中から自分で貯めて、お風呂屋さんの借金を返しなさい。」Dさんは肥えたからだ全身を荒々しくゆさぶるようにして、何かを叫びながらドアに向かって突進し、出て行きました。

 その後、愛すべき"姫"は銭湯の借金を返済しただけではなく、やがて食事とお金の管理も自分でできるようになったのでした。