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評価尺度を用いた精神科薬剤師業務の実践

医療法人せのがわ 瀬野川病院 薬剤課
桑原秀徳

はじめに

 精神科医療は、かつてはブラックボックスのような構造であったが、近年は多職種によるチーム医療という構造へ変化してきた。そうなるにしたがって各職種間での透明性の確保や情報共有というものが重要になってきている。その際の情報共有のあり方としては、各職種の立場から見立てた患者の状態像というものを持ち寄って、それを互いにすり合わせていくことが望ましいと思われるが、その状態像の見立てとは一体どのように行うべきものであろうか。
 一般の内科・外科的な疾患であれば、各種検査結果や外観上の変化などのように誰が見ても一目瞭然なものを指標にして患者の状態像を把握していくことができる。しかし、精神疾患というものはそのような客観性に富み直接把握できるようなもので病態を見ていくことができない。それでも例えばベテランのスタッフであれば、それは雰囲気で察しているかもしれないし、的確に他のスタッフに表現して伝達することができるかもしれない。
しかしそれは誰もができるわけでもなければ、他者に対する論理的な説得力も持たせにくいものである。一方で我々はまた、臨床の場で目にしたことを客観的に記録することで、時間を越えて情報を共有することが可能となり、今後の業務の改善、ひいては医療の発展に貢献していくことができる。これらのことに対応していくには、やはり患者像の把握の標準化ということが必要になってくる。
 さて、ここで患者の状態像を見立てるための標準化されたアプローチの一つに、適切な評価尺度を用いて患者の状態を評価していくという方法がある。特別な訓練を必要とせずに誰でも迅速かつ簡便に評価できる尺度や、またはよく統一された一定の訓練を受けることによって評価者間のばらつきを少なくした評価尺度は臨床の場において多職種間での情報共有において非常に有用であると考えられる。我々が薬剤師として、患者の状態、副作用、QOLなどを客観的な尺度でもって評価して他職種に対して示していくことは、多職種によるチーム医療に参加していく上では自分の意見を示す際に必要な根拠となるであろう。このような考えのもとに、当院において薬剤師がどのような評価尺度を臨床の場に用い、どのように活かしているかを紹介したい。

瀬野川病院の特色と薬剤師業務について

 医療法人せのがわ 瀬野川病院は広島市の東部に位置する精神科病院で、広島県と広島市の指定する精神科救急医療センターとして、「いつでも どこでも だれでも」という救急医療の原点を病院の基本理念に掲げてトータルケアとしての精神科医療の提供を行っている。当院は全325床のうち、2病棟108床が精神科救急病棟(スーパー救急病棟)となっており、平成21年の統計で示せば、新規入院患者の11%が措置・緊急措置入院、50%が医療保護・応急入院である。また、当院はアルコール・薬物依存症の専門的治療を行う医療機関として機能してきた経緯もあることから、新規入院患者の約4分の1がアルコール依存症であり、覚せい剤とその他薬物依存症を含めると、統合失調症と同程度(3分の1)の割合を占めているのが特徴である。また、我が国の高齢化の影響であろうが、近年は認知症などの高齢者に多い疾患で入院する患者も確実に増加してきている。これらの患者のほとんどは向精神薬による治療の対象となるが、例えば統合失調症患者とアルコール・薬物依存症患者では薬剤の反応性が異なることも多く、高齢者では向精神薬による副作用発現のリスクのみならず、転倒や誤嚥性肺炎など副作用に伴う二次的な有害事象発生のリスクが高いことは言うまでもない。ゆえに薬物療法における副作用や患者のQOLをいかに適切に評価していくかということはこのような患者の治療にあたっては大変重要なポイントであると考えている。
 このような特色を持つ当院は地域精神医療を実現させるためのトータルケアとして、以下の項目に重点を置いている。
    1) 24時間365日いつでも対応可能な救急システム
    2) 入院時よりいち早く個人個人にあった治療計画の作成による早期社会復帰の支援
    3) 退院後の多職種チームによる訪問看護・指導やデイ・ナイトケアによるアフターケアの充実
    4) それぞれの目的にあった、生活や就労等へのきめ細かな指導

 当院ではこれらのポイントを正面から実現するために、各分野のエキスパートが加わった多職種チームを構成する目的で、様々な専門職が適所に手厚く配置されている。当院薬剤課においては、現在薬剤師9名(非常勤1名含む)の体制で臨床業務を展開している。そして薬剤管理指導料が算定できるか包括化されているかにかかわらず、治療に必要、有効と思われる医療サービスは積極的に提供していくという方針で、救急病棟、治療病棟、療養病棟とそれぞれ機能分化した病棟全てにおいてそれぞれ担当の薬剤師を設定して薬剤管理指導業務を行っている。さらに服薬指導を通した薬剤師による薬物療法へのサポートを入院中だけでなく退院後も継続して提供するべく、援護寮や共同住居も含めた地域で生活する患者を対象に訪問薬剤管理指導業務を開始した。薬剤師による訪問薬剤管理指導はこれまでの5年間で様々な試行錯誤を繰り返してきたが、近年は他職種にも認知されるようになり、病棟における服薬指導と同様に重要な薬剤師業務という位置づけになっている。
 このような当院薬剤師の臨床業務の中で最も頻繁に用いられるのが薬原性錐体外路症状評価尺度(Drug Induced Extrapyramidal Symptoms Scale、以下DIEPSSとする)である。


52(11.02.18)