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SDSS-J、SAI-Jを用いた薬剤業務の有用性

東邦大学薬学部医療薬学教育センター
臨床薬学研究室 吉尾 隆

Ⅰ.はじめに

 精神科専門薬剤師・精神科薬物療法認定薬剤師には、薬物療法の維持(効果・副作用・相互作用などのモニター)、処方支援(適切な薬物療法を行うための支援)、処方設計(適切な薬物治療の提案)、そして医師との共同研究による新たな薬物療法の提案が求められており、精神科における薬剤師の最も重要な役割は、適切な薬物療法の実施と考えられます。
 これまでも、統合失調症の薬物療法の評価を行い、適切な薬剤の選択を行うために、薬剤師も薬に対する構えの評価表Drug Attitude Inventory(DAI)や薬原性錐体外路症状評価尺度Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale(DIEPSS)を用いて自覚的薬物体験や錐体外路症状の評価を行い、服薬の継続が可能な薬物療法の実施に寄与して来ました。しかし、適切な薬物療法を提案するためには、薬剤師が精神症状を直接評価することも必要となります。これまで、精神症状を評価するための評価尺度は多く開発されており、日本語版の翻訳や開発も進んでおり、薬剤師も積極的に精神症状評価尺度を使用し、医師を始めとした医療チームにおいてその評価結果を共有していくべきです。
 今回は、統合失調症患者における適切な薬物療法の実施のための評価尺度として、病識評価尺度日本語版The Japanese version of the Schedule for Assessment of Insight (SAI-J)、主観欠損症候群評価尺度日本語版Japanese version of Subjective Deficit Syndrome Scale(SDSS-J)の有用性について紹介します。
 各評価表はそれぞれのマニュアル本をご参照ください。

表1統合失調症患者において使用される評価尺度

Ⅱ. 精神症状評価尺度と面接方法

1. 精神症状評価尺度

 現在、統合失調症患者の精神症状やアドヒアランス、錐体外路症状などの評価尺度として国内で汎用されているものを表1に示します。本項では、現在薬剤師によって最も使用されていると考えられるDAI-10、DIEPSSと今回取り上げたSAI-J、SDSS-Jについて簡単に解説します。

1)薬に対する構えの評価尺度DAI-10 (Drug Attitude Inventory-10)
 DAI-10はトロント大学のHoganとAwodにより1983年に開発された薬に対する構えの評価尺度DAI-30の短縮版です。現在、国内では自覚的薬物体験を評価する為の評価尺度として使用されており、薬物投与後に患者がそれをどのようにとらえるかを評価するものです(Hogan TTP,Awad AG , Eastwood R : A self-report predictive of drug compliance-in schizophrenia : reliability and descriminative ability , Psychological Medicine , 1983 , 13 : 177-183. :日本語版、訳・検定:藤井・宮田 1996.)。また、DAIは自記式の評価尺度であることが特徴であり、被験者の自覚的な印象を重要視しています。評価は陽性反応と陰性反応の総和で行います。DAI-10では総和は−10点から+10点の範囲となり、総和がプラスにある場合、自覚的薬物体験は良好であり、マイナスにある場合は不良であると判断します。
2)薬原性錐体外路症状評価尺度DIEPSS (Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale)
 DIEPSSは向精神薬による錐体外路症状を評価する方法として、稲田によって作成された評価尺度です(稲田俊也著、八木剛平監修:薬原性錐体外路症状の評価と診断、DIEPSSの解説と利用の手引き.星和書店,東京,1996.)。錐体外路症状は抗精神病薬のみならず、抗うつ薬や中枢作用性のある制吐薬やカルシウム拮抗薬でも出現する可能性があり、様々な薬剤によって生じる錐体外路症状を評価できます。錐体外路症状8項目と概括重症度1項目で評価を行い、各項目は0から4の5段階の重症度からなり、合計が高いほど重症度が高いと判断します。
3)病識評価尺度日本語版SAI-J
   (The Japanese version of the Schedule for Assessment of Insight)
 SAI-Jは,Davidにより開発された病識を実証的に測定することを目的とした半構造化面接尺度の日本語版です(David AS:lnsight and Psychosis.Br J Psychiatry 156:798-808,1990.日本語訳:金吉晴)。SAIは、病識をある/ないといった二値的なものではなく連続的なものとしてとらえ、また単一の次元における現象ではなく「精神疾患の存在への気づき」、「病的体験を精神症状としてとらえる能力」、「服薬に対するコンプライアンス」などいくつかの次元によって構成されるものであると定義した点において特徴的であり、現在、欧米で最も広く用いられている病識評価尺度の1つです。
 SAIでは3つの病識が評価されます。治療と服薬の必要性、自己の疾病についての意識、精神症状についての意識の3項目を半構造化面接で評価します。服薬の必要性、自己の疾病についての意識、精神症状についての意識という病識の3つの重なり合う側面を評価する下位尺度と、周囲の人の知覚と自らの体験との矛盾の解釈から病識を評価します。
 各質問への解答は0〜2点の3段階で評価され、補足質問項目の得点を加算した合計得点を算出し、得点が高いほど、高い病識を持つことが示され、最高得点は18点ですが、日本語版では、これに1cとして金が入院についての意識を加え、最高得点が20点となっています(酒井佳永,金吉晴,秋山剛,立森久照,栗田広:病識評価尺度(The Schedule for Assessment of lnsight)日本語版(SAI-J)の信頼性と妥当性の検討. 臨床精神医学 29(2)177−183,2000.)。
4) 主観欠損症候群評価尺度日本語版SDSS-J
    (Japanese version of Subjective Deficit Syndrome Scale)
 SDSS-Jは、Bonn 500 研究( Huber, Gross, Schuttler, Linz, 1980 )において、統合失調症によくみられる訴えとして確認された主観体験の19 項目で構成されています。19 項目のなかには、知覚やものの見方、覚醒や注意、身体的に良好であること、認知や感情の領域での主観的に困難と感じるもの等が含まれます。Istvan Bitterらによって作成され、湖海らが翻訳し日本語版を作成しています(湖海正尋、稲田俊也著:主観欠損症候群評価尺度 日本語版[SDSS-J])じほう,東京,2003.)。19項目の質問には0から4までのアンカーポイントが設けられており、合計点が高い方が重症度が高いと判断します。また、質問項目により補足質問が設定されており、質問の仕方に自由度が設けられています。

2. 面接方法

 精神症状評価尺度は患者と面接することでその状態を評価しますが、様々な面接方法があり、構造化面接、半構造化面接、非構造化面接などがあります。

1)構造化面接
 調査面接のように、質問項目、質問順序とも決められており、それにしたがって、面接者がリードして、面接を行います。
2)半構造化面接
 質問項目は、決められていますが、その順序は決められていない面接です。会話の流れに応じ、質問の変更や追加をおこない、自由な反応を引き出すものです。
3)非構造化面接
 カウンセリングや心理療法のように、相談、治療の面接で用いられ、質問項目も決まっておらず、自由に行われる面接です。
 SAI-JとSDSS-Jは半構造化面接であり、自由度が高い反面、患者との信頼関係や相互理解が評価上重要な要素となり、精神科での臨床経験が必要となります。

88(13.03.22)