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精神科専門薬剤師の役割と実践

医療法人井上会篠栗病院 薬剤室
坂田 睦

精神科専門薬剤師認定を受けた理由

 私が精神科勤務を始めた1995年当時、福岡には精神科に関連する薬剤師の研修会等はありませんでした。そこで吉尾隆先生、竹内尚子先生が東京、神奈川で開催されていた研修会へ参加させていただきました。その経験を生かし、周辺病院の薬剤師の先生方と一緒に福岡でも精神科薬剤師の研究会を立ち上げました。また、精神科薬物療法について勉強を始めたころは、どのような本で学習すればよいのかもわからず、精神科の医師に相談しながら書籍を購入して学習し、学会等へも積極的に参加して参りました。私なりに自分の時間とお金を費やして精神科勤務薬剤師としての研鑽を蓄積してきた、その結果として精神科専門薬剤師の認定を受けました。私個人にとって通過点のひとつと考えています。さらに最も大事な点は、私自身が精神科薬物療法に興味があり、「精神科医療にずっと携わっていきたい」という思いがあったことです。そのためにも精神科専門薬剤師の認定は、公私共に必要な資格だと感じ認定申請を提出しました。

認定論文作成での苦労やポイント

 一言で、論文作成といっても簡単なことではありません。私達は論文を作成することを目的として日常の業務を行っているわけではありませんが、我々の日々行っている業務は科学的根拠に基づいた業務だと考えると、自分が行ったことを淡々と論文にまとめるという作業をすることが、実は研究活動の実践であると考えることができます。言いかえると、業務も論文作成も同じ作業を行っているという意識を持つことが大事です。すなわち、根拠の無い業務遂行は、実は患者にとって的確な治療ではなく、薬剤師の自己満足に過ぎず、適切な業務評価を行い、最適な薬剤師業務を行えばそれは研究活動と同等の意味を持つことです。言いかえると、適切な薬剤師業務を行い、公平に評価し、的確に改善し、介入結果を比較検討し、日常の業務をまとめて学会発表し、論文にするという作業を一連の薬剤師業務として捕らえることが大切なのだと考えています。
 私の提出した論文のひとつは、多剤併用大量処方への情報提供についてのものです。非定型抗精神病薬発売後、多剤併用大量処方が問題視されたとき、原因は何かということを最初に考えました。医師は患者さんの状態を良くしたい気持ちがあって処方をしています。言いかえると、患者を良くしようと考えた医師からすると「結果的に多剤併用大量療法になってしまった」と捕らえました。結果的には多剤併用大量療法が存在する状況になっておりましたので、抗精神病薬の投与量をチームで共有できる指標はないかと検討しました。医療現場では向精神薬の換算が研究等で用いられてきておりましたので、臨床で向精神薬の等価換算を活用することを考え、データベースを作成し、処方箋に換算量を明示することから開始し、パソコンを用い処方の推移をグラフで診療録へ提示することを実行いたしました。そしてひとつのガイドラインを参照して情報提供を実施し、その経過と結果をまとめて論文を作成しました。
 簡単なようですが「自分が行った医療行為をまとめる」というのも大変な作業です。何か行動を起こしただけでは臨床研究の題材とはなりません。基本的に行動を起こす前のデータがあり、行動をした結果何が変わったかということをまとめていくことが大切です。そのためにも薬剤部門でデータを蓄積するシステムを構築しておくことが大切です。私は「薬剤師はデータを持っていなくては話にならない」と思っております。今回紹介した多剤併用大量処方への情報提供を行った際も、情報提供前の4年分のデータを蓄積したことが功を奏しました。このデータがあったからこそ、結果をまとめることができました。薬物療法による問題点は、現場にたくさん存在していますので、それに対して薬剤師がどう行動を起こし、データとして残して行くかということが大切だと思います。
 一方、論文作成には論文の書き方も大切な要因のひとつです。私は広島大学の森川則文教授の指導を受けています。研究に対する個人的な視点で自分の考えなどが入ってしまい、感想文になりがちな表現を教授に指導していただいています。指導者と出会い、自分以外の誰かに自分の原稿に目を通してもらうことも、勇気がいることすが、非常に重要なことでしょう。第三者に批評してもらうことで、自分の考えが独断的にならない表現、読者に理解してもらえる文章に変わることは重要なことです。この作業を繰り返すことで、文章力もつきますし、自分の言いたいことが再認識できます。それから、私も近頃気づいたのですが、「自分の書いた論文を誰に読んで欲しいのか」「自分が何を伝えたいのか」を考慮して投稿先を検討して投稿することが大切だと思います。

0(08.10.17)