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精神科薬物療法認定薬剤師・精神科専門薬剤師を目指す

常盤病院薬剤部
馬場寛子

はじめに

 精神科医療に従事してから、約20年が経過した。精神科専門薬剤師という認定制度が実現したことは、夢のようでもある。そもそも、私自身の薬剤管理指導業務の原点は、長期服薬が必要とされる精神疾患を持った患者のサポートができればとの思いからである。現在では、アドヒアランスという表現をするが、薬を飲み続けることは容易ではない。また、精神科医療における薬物療法は、その土台となるもので、そこがうまくいかなければ、患者の人生は大きく変わってしまうのである。それほど、薬物療法は大きな意味をもっているのだと考えている。

精神科専門薬剤師を目指す

 数年前より、統合失調症の多剤大量療法の問題点が指摘されるようになり、さらに次々と新規抗精神病薬が登場した。それから最適な薬物療法を目指し、患者と向き合ってきた。それは、全国の精神科薬剤師も同様で、それぞれ精神科の最適な薬物療法を目指し、現場を変えようと努力している。私が勤務している常盤病院も、以前は多剤併用大量療法の処方が存在していた。2000年以降、抗精神病薬の単剤化・適正容量化を目指し処方が変更になっていった。実際に、大量の薬を飲んでいた患者が、適正な薬に変わっても、精神症状は変わりなく、時間が経つにつれ、患者は本来の自分を取り戻し、充実した生活を送ることができるようになった。そのような姿を見て、今まで大量の薬で患者が本来持っている機能を、抑え込んでしまっていたことを、残念に思う。しかし、適正な薬に変更できていない患者の時間は、機能を抑えられたまま、まだ止まっているのである。
 さらに、現在、年間3万人を越える自殺者が10年連続している問題や、精神障害者の社会復帰など精神科医療を取り巻く問題は多く、適切な精神医療のかかわりや、最適な薬物療法が求められている。
 したがって、精神科薬剤師が担う役割は重要であり、その仕事を担うために、精神科専門薬剤師という制度が成立したものと考える。また、精神科の薬物療法について、一定レベルの知識を持った薬剤師であることが、外から見てもわかるための印であり、患者のためによりよい薬物療法を実践するためのライセンスだと思っている。

精神科専門薬剤師のハードル

 しかし、精神科専門薬剤師の認定をいただくにあたり、臨床の現場で働く者にとって、学会発表や論文は大きなハードルとなった。特に論文は、書き方もわからずに右往左往したというのが、正直なところである。まず、どんなことがテーマになるのか、どのように調査研究をすればよいのか、どのようにデータをまとめればいのか、そのデータをどのように評価すればよいのか、どのように書いたらよいのか、わからないことだらけである。
 ある時、副作用報告の論文をまとめるように、医師から依頼された。書ける自信はまったくなかったが、チャレンジした。とりあえず同じような論文を読むことから始めた。副作用報告や症例報告の論文を読み、どのような内容を盛り込めばよいか、模索した。書きあげた論文を、依頼を受けた医師に査読してもらい、投稿、論文の審査官よりの質問への回答を繰り返し、結局掲載までに、3年の月日が流れていた(文献1)。少し、特殊な事情はあっての3年なので、論文1本仕上げるためには、3年は大袈裟にしても、1年位は予定してもよいと思う。臨床の業務をやりながら論文を書くには、そのくらいの時間の余裕をもって、論文の作成をされると良いと思う。
 また、アンケート調査を論文にしたときには、数値の扱いがわからず苦労した。いわゆる統計学的な処理である。統計学は、大学の授業で受けたきり、お恥ずかしいことだが、受けたということしか覚えていないありさまだった。そこで、頭の固くなったおばさんでもわかる統計学の本を探し(文献2)、1から勉強をやり直した。いまだに十分理解できているとはいえないが、少し論文のデータが意味するところは、わかるようにはなってきた気がする。
 さらに、アンケート調査を基本にした論文も、探して読んだ。投稿した後は、審査の先生のご意見に、精一杯答える日々がつづいた。しかし、審査の先生のご意見が、論文を作成するための基本を示してくれていた。審査の先生に、感謝しながら、なかなか手直しの作業が進まない中、何とか仕上げることができた。一生懸命書いた論文に、審査の先生から、厳しいご意見をいただくと、がっくりするのも事実である。しかし、一つ一つ考えたり、調べたりすることは、自分自身の知識となっていくのである。
 学会発表や論文作成は、それをするために多くの文献をひも解いたり、考えたりすることで、自分自身が高められること、そのことが重要なのではないだろうか。もちろん、発表の内容が、多くの医療従事者に貴重な情報となれば幸いである。

14(08.10.03)