Home > 薬剤業務 > 服薬指導6 (PAGE 1)

服薬指導6 家族に対する服薬指導1

桜ヶ丘記念病院
吉尾 隆

Ⅳ.家族に対する服薬指導

 精神科における服薬指導は、患者自身のみならず家族に対しても必要であり、家族に対する十分な心理教育が再発防止の重要なポイントとなります。American Psychiatric Associatuon(APA)のガイドラインは、抗精神病薬の維持療法において患者さんと家族に危険性と利点、代替の治療法について説明することを定めています。また、このことはインフォームド・コンセントを意味していますが、インフォームド・コンセントは治療に従うこと(コンプライアンス)ではなく、自分で治療を選べること(インフォームド・チョイス)であり、その結果、治療に関して当事者も責任を分担する共同作業(コラボレーション)であるとの認識が重要です。

1)服薬の継続と統合失調症の再発について

 薬物療法のみにより統合失調症を治すことができないことは多くの研究により指摘されています。薬物療法による"治癒"は医学的モデルとしての"疾患の治癒"であって、薬物によって脳の異常機能を適切に矯正できても、精神障害の発症の誘因となる心理社会的要因の調整や、罹患の結果として起こった社会不適応状態を回復させることはできません(文献1)。したがって、精神療法や社会復帰活動、行動療法などの併用が必要となります。

 しかし、薬を服用していれば再発のリスクを軽減することは可能となります。統合失調症の薬物療法では、患者自身の病気であることの自覚、あるいは家族等の理解の不足により、服薬の継続が難しくなる場合が少なくありません。抗精神病薬は病気の治療薬であると同時に再発の予防薬でもあります。したがって、退院後も規則正しい確実な服薬の継続が必要となります。抗精神病薬の服用は、急性期から回復して退院した患者の再発・再入院を減少させる効果が少なくとも2年間まではプラセボに比べて優れていると言われていますが、その再発予防効果も3〜5年で限界に達すると言われています。

 しかし、再発時の急性度・重症度、自傷・反社会的行動、社会性・作業能力、入院の自発性、入院期間、治療薬量などについて、非服薬群は服薬群より有意に悪く(文献3)、しかも元の水準に戻るのがかなり難しくなると報告されており(文献5)、維持療法の一般的な必要性と有効性を示しています(文献6)。また、長期間症状の安定している慢性の精神分裂病の患者で薬剤の減量を試みた調査の結果からは、薬剤を減量した患者群と減量しなかった患者群では2年間の比較で症状を悪化させずに減量はできなかったと報告されています(文献4)。 これらの報告からは抗精神病薬の再発予防効果は疑いなく、一定の効果が得られますが、一方で服薬を継続していても再発する場合や、服薬を中断しても再発しない患者が存在することも報告されています。

 しかし、再発群と非再発群を区別することは事実上不可能であり、維持療法をきちんと継続することが重要であると言えます。再発防止のために、大部分の統合失調症患者には抗精神病薬の長期にわたる維持投与が必要であり、再発防止のための薬物はいわゆる治療用量に比してごく少量でよく、日常生活の障害になる副作用の少ないものを選び、持効性の注射剤なども推奨され、症状が寛解していれば、薬物の種類や用量よりも、続けて服用することが重要であり、患者や家族の病気に対する正しい理解、医師ー患者間の信頼関係、日常生活への助言、社会復帰への援助が再発防止のためきわめて重要であること、そしてそのためには服薬維持が前提になると言われています(文献2)。

文献

  1. 風祭元:精神科薬物療法の特徴と治癒概念.精神科領域における薬物療法.精神科MOOK増刊号1.金原出版、東京、pp1−8、1989.
  2. 風祭元:分裂病の再発と薬物療法.太田龍郎編;精神分裂病の再発.ライフサイエンス、pp50−56、1994.
  3. McEvoyJP、Howe AC、Hogarty GE:Difference in the Nature of Relapse andSubsequent inpatient Course between Medication−Compliant andNoncompliant Schizophrenic Patients.J Nerv Ment Dis 172:412-416、1984.
  4. 鶴田 聡:長期間症状の安定している慢性の精神分裂病患者に対する薬物減量の試み.精神医学、38(9):929-937、1996.
  5. Wyatt RJ:Neuroleptics and the Natural Course of Schizophrenia.Schizophr Bull 17:325−351、1991.
  6. 八木剛平:精神分裂病の薬物治療学−ネオヒポクラティズムの提唱.金剛出版、東京、pp159−160、1993.