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医療機関のマスコミ対策〜メディアコントロールの具体的な対応


医療ジャーナリスト:冨井 淑夫

企業に比べて遅れている医療機関の「危機管理」広報

 近年、大学病院等の医療事故に関するニュースが、テレビや新聞、週刊誌等で報道される機会が増えてきた。地域に密着した民間病院で起こった事故の場合は、余程、特異な事件でない限り、地方紙や地方局を中心としたローカルニュースで完結するケースが大半だが、大学病院を始め著名な中核病院は、全国ニュースとして取り扱われることも多く、広報対応を誤ると大きなダメージを受ける。最近、医師の内部告発により医療ミスが発覚した某病院は、マスコミへの記者会見で病院長や理事長らが互いに対立し、責任転嫁するような発言が見られたが、公の場でのこうした言動は、大病院の組織に巣食う病巣を露呈させる。こうした事例を目にすると、一般企業と比べ医療機関は組織が“一枚岩”となっての「危機管理」広報に慣れていないし、対応の遅れにより傷口を広げてしまう危険性も高い。現在のようなネット社会になると医療報道をきっかけに病院のネガティブ情報が一挙に拡散し、計り知れない風評被害を被るリスクは常に付きまとう。

雪印事件を“反面教師”に病院職員への模擬訓練を!

 一般企業の失敗事例としてよく語られるのは、2000年に起こった雪印乳業の集団食中毒事件。当時の状況を振り返ってみると、6月27日に大阪市内の病院から保健所に、同社が製造した低脂肪乳に「食中毒の疑いあり」との通報が入り、翌28日に大阪市より同社へ製造自粛、回収及び事実の公表の要請が行われた。翌29日、雪印は要請通りに製造自粛、回収を行ったものの不運なことに、この日は株主総会で社長を含めて幹部は全員、北海道に出張しており、同社による公表が遅れてしまった。要するに大阪市が29日に独自に記者会見をして、3回に亘り事件を公表した後、夜の10時を過ぎてから社長が記者会見するという形で、後手に回り批判を浴びた。会見の場では記者から激しい質問が投げかけられたが、会見終了後、エレベーター前で社長が記者達のメディア・スクラムに合って、漏らした「私は寝ていないのだ!」の一言が、更に火をつけてしまった。“何気なく”話した一言がテレビ映像で鮮明に映り、その情報が拡散してマスコミや世論の怒りを増幅させ、長い期間に亘ってバッシングを受ける結果を招いた。7月6日に同社社長は引責辞任し、11日には全国21の工場の生産を停止。食中毒の被害者は1万1376人に及んだ。事件当時雪印は従業員約1万5000人、売上高約1兆2000億円という業界トップの上場企業であったが、2年後には約7270億円と売り上げは半減し、信頼回復には長い時間を要した。
 企業や病院の危機管理の問題に詳しい弁護士の外山弘氏は、雪印のケースを“反面教師”として、幾つかの病院の広報担当職員に、次のような有事の際の模擬訓練を行った。
 A病院の事務部門で、広報担当責任者・T君(33歳)は、その日の夜、病院職員の飲み会で出来上がりつつある頃に、看護師長から緊急のメールが入った。病院内で何人かの入院患者に食中毒が発生したが、未だ原因は不明。ノロウィルスの疑いがあるが、担当医は検査結果が出るまでは分からないと言っている。最終的には理事長・院長の判断に委ねられるが、現段階では理事長も直ぐに公表すべきかどうか、迷っている。病院内に適切な判断の出来る人間はおらず、緊急事態に企業広報出身のT君にアドバイスを求められたのだ。一気に酔いがさめたT君は、居酒屋から携帯電話で病院の顧問弁護士と相談。A病院は給食を全面、外部企業に委託外注しているので、仮にノロウィルスが原因だったとしても、弁護士は病院側の過失責任は問われないだろうとの判断だ。迅速にマスコミに公表すべきなのかどうか?雪印の場合は、1日公表が遅れたことにより、社会的批判を浴び、甚大な被害を招いてしまった。検査結果が分かるまで最低2日はかかるのだが・・・。
 非常に難しい判断を迫られるケースだが、外山氏は「病院内で既に食中毒が発生している場合は、原因が分からなくとも早急に公表しなければ、被害が拡大するリスクを抱えている。広報担当者は超迅速、かつ正確な広報を行うことが求められる。あなたの病院の理事長が当時の雪印の社長と同じ立場に置かれた場合に、本当に適切な対応が出来るかどうかをまず考えて、危機管理広報に備えて欲しい」と警鐘を鳴らす。