Home > 経営管理講座 病院で頻発する労務トラブルと「内部告発」の研究(PAGE 1)

病院で頻発する労務トラブルと「内部告発」の研究 〜危機管理へのアプローチ


医療ジャーナリスト:冨井 淑夫

注目集まるブラック企業問題で「内部告発」者の危機管理が重要に

 2013年、全国紙で某医療法人が経営する地方都市の民間病院が、看護師の夜勤時間を偽り、不正請求を行っていたとして、地元の厚生局が保険医療機関の取り消しをするとの報道がなされた。この病院で不正請求の実態が明らかになったのは、退職した元職員の内部告発によるものだ。他の病院グループでも、解雇された元幹部が内部資料を特捜部に持ちこみ、ある問題に関し本部がガサ入れ(強制捜査)される騒ぎがあったのは、記憶に新しい。
 こうした内部告発者が現われるのは、複数の病院を経営する民間の医療法人グループに多いようだ。カリスマ的な創業者による強力なリーダーシップによりけん引されてきた病院グループが、トップの高齢化や求心力の低下によって、後継者を巡る権力闘争に端を発したトラブルが勃発することは、決して珍しくはない。これは病院に限らず、一般企業でもよくある話だ。
 また病院組織が巨大化すればする程、トップの目は末端まで行き届かなくなるし、一般職員と接する機会も少なくなり、経営者との意思の疎通や誤解も生じやすくなる。
病院の内部告発者への危機管理が改めて重要と考えるのは、最近、頻発する労務トラブルの問題が、大きくクローズアップされてきたからだ。
 ブラック企業というキーワードが近年、マス・メディアを賑わせている。明確な定義はないのだが、若者を"使い捨て"にする企業として、批判的に使われるケースが多いようだ。事態を重く見た厚生労働省は、昨年9月を「過重労働重点監督月間」として、正規・非正規を問わず抜き打ちで長時間労働と、残業代未払を重点的にチェック。労働者からの電話相談も受け付けた。「労働Gメン」と呼ばれる約3000人の労働基準監督官が取締りに当たり、余りにも悪質な場合は強制捜査を行って、今後は企業名も公表していく予定だ。
 厚生労働省によると、昨年、重点監督を実施したのは当初の予定4000社を大きく上回る全国・5111事業所に及んだ。そのうちの約82%に何らかの労働基準関係法令違反があったとしている。この中に医療機関がどの位の割合を占めているのかは定かでないが、筆者は昨年、労働基準監督署に告発した元病院職員を取材する機会を得た。仮にO病院グループとするが、告発者は事務部門(IT担当)に勤務していた30歳代のY氏。前職は中堅IT企業のSEだが医療機関の勤務経験はない。本院のO病院で採用されたが、勤務期間は1年半で過労により体調を崩して自己退職した。取材源の秘匿と当該病院の地域、病床規模等は特定しない約束で、重い口を開いてくれた。O病院のケースを"反面教師"として、危機管理意識を持って頂くことが重要と考えて、Y氏の証言を紹介する。  

ブラック病院の元職員に聞く――ずさんな労務管理で看護師の離職率が50%を超える

 O病院グループは急性期医療を担う本院・О病院の他に、他県にも複数の医療法人立の病院を有しているが、その大半は近年、M&Aで傘下に入れたもの。その他、各地で積極的に介護事業等も行っている。同グループを統括する会長は業容拡大に熱心な人物である。
 Y氏は次のように説明する。「求人広告で賞与は年3回、給与の各3か月分と明示されていましたが、実際は年2回、トータルで1.9か月分しか支給されませんでした。〇病院に就業規則が存在することは事務局長から聞きましたが、職員には開示されず見た者は誰もいませんでした。」Y氏は専門であるIT関連だけでなく、人手不足のため医事や庶務関係の仕事まで兼務し、毎月の残業時間は平均して100〜120時間。毎月3万円の定期残業手当は付くものの、それ以外は全てサービス残業だった。
 最も離職者の多かったのは看護師で、Y氏の入職した最初の3ヵ月間で50数名の看護師が退職し、離職率は常に50%を超えていた。看護師の離職原因は給与面の不満に加え、会長が救急患者を増やすことに注力し過ぎて、過重労働を引き起こしたこと。看護師の離職者の連鎖によって、一時は一部の病棟が閉鎖寸前に陥ったこともあった。もちろん「7対1」看護体制は取れずに、「10対1」を維持するのがやっとという状況だった。
 会長の口癖は「看護師の代わりは幾らでもいる」で、人材を大切にする発想は全く無かった。また、ある看護師長は「入職2ヵ月で残業代は必要ない」と平然と言い放っていた。とても中間管理職が育つような環境ではなく、看護師長もY氏が在籍した1年半で3人が交代していた。医師の平均在職期間は1年程。O病院グループ全体の財務内容は会長と、殆どが会長の親族で固められた理事以外の誰にも知らされていなかった。
 Y氏の証言を裏付けるべく、O病院の総務部・人事課に半年間勤務した女性Cさん(30歳代)にも話を聴く機会を得たが、にわかには信じがたいような話をしてくれた。
 「労務管理は極めてずさんであり、現場の慢性的な人手不足により事務局長は医師や看護師の国家試験免許も預からず新規採用し、すぐに仕事をさせていました。監査が入るという時に、慌てて免許を出してもらうようにお願いしたこともあります。」
 こんな経営が行われていながらも、O病院は最近、「ISO9001」を受審。病院機能評価事業の認定を受け、現在でも地域で名の知れた第一線の救急病院として君臨している。