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在宅医療の地殻変動と16年改定の新機軸「在宅医療専門診療所」の全貌


医療ジャーナリスト:冨井 淑夫

要件厳格化で在宅医療を断念する診療所も・・・

 厚生労働省は「2025年の医療・介護提供体制モデル」の実現に向けて、近年の診療報酬改定で在宅医療に対する重点評価を継続してきた。2014年4月の改定では「機能強化型」在宅療養支援診療所(在支診に略)・同在宅療養支援病院(在支病に略)の要件を厳格化した。最も影響の大きかったのは「入居者に訪問診療を独占的に提供する契約を事業者と結ぶ」患者紹介ビジネスの横行を規制すべく、「高齢者住宅等、同一建物」での診療報酬が、大きく減額されたこと。例えば不適切事例の温床となった「在宅時医学総合管理料」と、「特定施設入居時等、医学総合管理料」に関して、「同一建物・複数人訪問」のケースを別建てにし、点数を現行の約4分の1に減額。「訪問診療料」に関しても2分の1に減額した。そうしたことから、コストパフォーマンスを検討した結果、全国各地で在宅医療を断念する診療所が出てきたため、医療過疎の進む市町村では今でも在宅医を探すのに苦労する現実がある。中でも“地の利”がなく、落下傘で新規開業した在支診が、在宅医療の中止や、閉院に追い込まれるケースが多いようだ。
 高齢者住宅等における「同一建物・複数人訪問」減収事例ばかりが注目されたが、14年改定ではむしろ“連携型”「機能強化型」在支診の要件の厳格化による影響が大きかったと思われる。12年改定で「機能強化型」在支診・在支病に対して、要件が「常勤医師3名、過去1年間の緊急往診実績5件以上、在宅看取り実績2件以上」だったのが、14年改定では「緊急往診実績10件以上、在宅看取り実績4件以上」にハードルを上げた。一方、複数の医療機関(10施設以下)による「連携型」の場合は、連携する医療機関全体で「過去1年間の緊急往診実績5件以上、在宅看取り件数2件以上」との要件を満たしていれば良かった。それが14年改定から連携全体ではなく、“連携の輪”に参加する各医療機関に対し個別に、「過去1年間の緊急往診年4件以上、在宅看取り件数2件以上」との施設基準が設けられた。12年改定では“連携型”の「機能強化型」が新設されたことで、全国各地で「機能強化型」を届出する診療所が増加し、在宅医療の裾野を拡げることに大きく貢献したのは事実。しかし、要件が厳しくなったことで、“連携の輪”からの離脱を余儀なくされるケースが出てきたのだ。

「機能強化型」の拡大にブレーキをかけた14年改定

 どのような影響を及ぼしたのかについて、医師会主導により先駆的に地域完結型・在宅医療ネットワークの構築を進めてきた某医師会の事例を紹介しよう。都市部に在るこの医師会にはA会員が100名近く在籍しているのだが、12年改定で「機能強化型」の制度が創設されたのをきっかけに、会員の全診療所に在支診届出の有無と、「機能強化型」を届出するかどうかのアンケート調査を実施したところ、18の診療所から届出を希望するとの申し出があった。そこで医師会主導により、各医院に書類作成を依頼し、その結果を集約して、18診療所が近畿厚生局に「機能強化型」在支診(連携型)の届出を行うことになった。各診療所のドクターの在宅医療への取り組みをベースにして連携体制を進化させ、市内全域をカバーする在宅医療ネットワークの仕組みを構築した。「機能強化型」の施設基準に「連携する医療機関の数は10未満」との要件が存在することから、18の診療所を地区ごとに、3つのグループに分類。同医師会に所属し、在宅医療を行いながら病床を有するT病院と、有床のN診療所が、全ての在宅患者の後方支援機能を担った。  T病院は市内唯一の「機能強化型」在支病であることから、同院に24時間コールセンターを設置し、在宅医療の連携拠点とした。コールセンターではPHSを導入し、24時間連絡を受けられる体制を整備。同医師会18診療所が、「機能強化型」を届出した後は、各医療機関の全在宅患者の診療情報をT病院、N診療所で一元管理。各医療機関から得た診療情報を基に患者リストを作成し、緊急往診の依頼に備えて担当医の連絡先、緊急連絡先のリストも準備した。3つのグループで各々、主治医とサブの在支診を選定し、自診療所で緊急往診が困難なケースは、サブ診療所がサポート。そして在宅患者に入院が必要となった時には、前出2医療機関の後方病床を利用する。この2医療機関は一元化された患者データを後方の基幹病院と共有し、必要な時は高次機能病院に搬送する画期的な仕組みを作り上げた。
 しかし、前述したように14年改定で「機能強化型」の要件が厳格化。その結果、連携に参加する18の在支診は年4件の緊急往診件数を皆、クリアすることが可能だったが、看取り2件以上のハードルが高く、経過措置が終了してから、「機能強化型」の返上を余儀なくされる診療所が幾つか現れた。筆者が15年9月に取材した段階で、この“連携の輪”に参加する無床診療所は11医院。後方機能を担うT病院、N診療所を含め、13医療機関で運用されていた。ただ「機能強化型」を返上した診療所の中にも、在宅医療に意欲のあるドクターは少なくないため、看取り要件をクリア出来た段階で、再度、届出を行なって、ネットワークへの復帰を目指す診療所が多数を占めた。
 在宅での看取りは患者のリビング・ウィルや当人・家族の死生観にも影響される。医療機関が恣意的に看取り件数を“増やす”こと等、現実にはあり得ない。実際に幾つかの県を電話取材したところ、同医師会と同様に看取り件数がネックとなり、「機能強化型」を返上し、“連携の輪”からの脱落を余儀なくされた在支診が、他にも存在することが確認できた。近年の診療報酬改定で、厚生労働省は一旦、点数誘導しながら、後の改定で梯子を外すことが多く見られる。ただ高齢化と人口減少が進み、医療機関の数自体が少ない地方都市で、これまで定期的に訪問診療を行ってきた医院の廃業、在宅医療からの撤退事例が発生すると、一番困るのは要介護高齢者等、外来受診が困難な患者さん達だ。
 全国特定施設事業者協議会等、高齢者ホームの事業者団体が14年6月に診療報酬改定後の動向を調査したところ、1764ヵ所のホームのうち8.8%で医療機関が変更になった他、「診療時間が短くなった」、「緊急往診が減っている」等の影響が出ているとの報道も目にした。改めて強調するが、“連携型”「機能強化型」が創設されたことの意義は大きい。しかし、唐突な要件変更により、厚生労働省が企図する「在宅医療の推進」にブレーキがかかるのであれば、“本末転倒”と断じざるを得ない。