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動き出した「地域包括ケア・システム」と医療機関の役割


(株)地域計画医療研究所所長・代表取締役
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 地域包括ケア専門分科会委員長
美留町 利朗 先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

 2014年6月に「医療介護総合確保推進法」が成立し、「地域包括ケア・システムの構築」が具体的な文言として出てきました。医療と介護を統合的に提供するのが地域包括ケアであり、そのための仕組みが地域包括ケア・システムとされています。具体的には概ね30分圏域の中学校区(人口1〜2万人)が想定され、高齢者を中心とするコミュニティでの「生活」を医療と介護の有機的連携(統合)によって支える仕組みで、中心には“住まい”が据えられています。今後、全国で整備が進められる地域包括ケア・システムの中で、医療機関の果たすべき役割について、美留町利朗先生に、お話を聞きました。

日常生活圏域における 地域包括ケアの実現が課題

―― 地域包括ケア・システム(以下、同システムに略)の整備により、今後、国は何を目指していくのでしょうか?

美留町: 昨年の医療介護総合確保推進法では同システムの他に、各都道府県で「病床機能報告制度」の実施と、地域医療ビジョンの策定が謳われました。これらの新機軸は全て同システムと連動していることを、ご理解頂きたいと思います。要するに地域毎に病床の医療機能を報告し、それらを全て集約化して同ビジョンを策定する流れになります。
 同ビジョンによる地域医療の再編には、地域の患者に高度急性期から急性期、更に回復期から慢性期、在宅に至るまでのシームレスな流れを作っていく狙いがあるのですが、最後の着地点となる在宅ケアの仕組みが上手く機能しなければ成り立ちません。地域医療再編は10年以上も前から各地域で様々な取り組みが行われてきましたが、在宅医療の受け皿が根づかないがゆえに、進展しない事例が数多く見られたのです。「地域医療の再編成」が先に来て、同システムが後付けに来るのではなく、同システムにより在宅ケアの受け皿を先に構築しないと、「地域医療の再編成」は“絵に描いた餅”となってしまいます。これは私たちも指導を受けている辻哲夫先生(東京大学特任教授)の持論でもあります。

―― 全国各地で動き出した同システムを幾つか視察されているようですが、現状では未だスタートしたばかりの黎明期と言えるのでしょうね。

美留町: 厚生労働省が同システムの事例集を作っていますが、そこで紹介されているのは小地域福祉活動と呼ばれるものが殆どです。地域の社協等が頑張って、独居老人の見守りや買い物支援、医療機関受診の車の送迎等、地域住民への支援活動が多数、紹介されています。これらの事例が進化すると、同システムに繋がっていく期待はありますが、優れた小地域福祉活動ではあっても、同システムそのものではありません。

―― 実際に医療法人グループ内だけの自己完結型連携を同システムと総称している施設もあり、“地域包括ケア”というキーワードを拡大解釈して使っている例も散見されます。

美留町: 病院が関連施設で在宅医療をやる場合も同じで、優れた在宅医療の取り組みにはなっても、それだけで同システムをやっているわけではないのです。先駆的な事例として、千葉県柏市のシステムがたびたび取り上げられますが、医療と介護の連携の視点からの柏市全体の構想は出来上がったと思います。ただ要となる旧柏団地、柏ニュータウンの仕組みづくりは、これからの段階になります。
 要するに現在の到達点としては、全国各市町村で第6次介護保険事業計画における同システムの基本方針は出揃ってきましたが、肝心の日常生活圏、中学校区における地域包括ケアのあり方については、殆ど具体化されていないのが現状でしょう。

―― そこには“住まい”の整備が、未だ十分とは言えない現実がありますね。

美留町: 厚生労働省の5つの視点の一つには、「高齢期になっても住みつづけることの出来るバリアフリーの高齢者住まいの整備」が謳われています。“住まい”を担う役割を期待されるものとして、サービス付き高齢者住宅(サ高住)が整備され、昨年11月段階で16万戸が造られました。国は当初、60万戸から100万戸の整備目標を打ち出していました。ただ運営者側からは採算が取れないとの意見も多く、一方、住民の側からは入居費用が高過ぎるとの声が聞え始めました。

―― 入居一時金に加えて生活費や介護サービス費用もかかるので、僅かな年金だけを頼りにしている高齢者には、経済的負担が大きいと。

美留町: そこで国土交通省から「スマートウェルネス住宅」という新しい事業が出てきました。都市再生機構が中心となって進めますが、空き家を利用して低家賃で入れる住まいを、全国で100か所整備していこうとのプランです。過疎と少子化が進む地方都市やニュータウンで展開する予定です。この他にも国土交通省は「コンパクトシティ」構想を進めており、人口減少により公的サービスの維持が困難になる中で、鉄道駅前や町の中心部に医療・介護の戦略拠点を作り、そこを中心に多様なサービス機能を集約化することを考えています。

―― 同システムと似た発想に思えますが、国交省の資料を見ても“地域包括ケア”というキーワードは一切出てきません。将来的に両省庁の事業は集約化されていくのでしょうか?

美留町: その点では近年、厚労省と国交省との連携は密になってきており、相互の事業の役割分担と連携を図りながら、将来的に同システムの普及を一体的に行っていくことは十分に考えられます。厚労省内でも医政局が医療保険・医療計画を担当し、老健局が介護保険・介護保険事業計画を担当する形の縦割りで運営されてきました。ただ医療介護総合確保推進法で、病床機能報告制度や地域医療ビジョンの策定は、一体的に事業を進めていくことになります(図表1)。2018年の医療保険・介護保険の同時改定で2025年までのロードマップが示されると思いますが、これまでに存在した省庁内各部署、更に省庁間の垣根は徐々に解消されていくのではないでしょうか。
図表1 地域包括ケア関連事業計画の流れ