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転換期を迎えた調剤薬局経営〜新たな付加価値創出への処方せん


医療ジャーナリスト:冨井 淑夫

徐々に強まる大病院の外来・門前薬局包囲網

 2012年の診療報酬改定では、大病院の外来受診抑制策が導入された。具体的には「紹介率40%未満・逆紹介率30%未満」の特定機能病院や500床以上の地域医療支援病院に対して、紹介状なしの患者の初診料と他の医療機関を紹介したにもかかわらず当該病院を受診した場合に、外来診療料の引き下げが行われた。2014年改定では、こうした流れが更に強化され、引き下げ要件の適用範囲が「500床以上の全ての病院」へと拡大された。
 更に特定機能病院に対しては、「紹介率・逆紹介率50%未満」に厳格化され、この基準が満たされない場合は、30日分以上の投薬の処方料や、薬剤料等が大幅減算される(但し一般病床が200床に満たない500床以上病院は除外)。この新しい減算措置は、2015年4月から導入され、大病院の門前薬局には4月以降、外来患者数減少による経営的な打撃が危惧される。加えて医薬品納入価格の妥結率が50%以下の200床未満病院に対して、初診料、再診料、外来診療料が減算されるだけでなく、保険薬局に対しても調剤基本料の減算措置が導入されるため、ダブルパンチの打撃を受けることになる。
 こうした医療制度面の外来縮小、門前薬局包囲網の流れは、今後も更に続いていくことが予想される。
 加えて2014年の診療報酬改定では「主治医機能」を評価するものとして、「地域包括診療料」が新設。200床以下の中小病院と診療所が対象で、マルメ(包括制)の月1回、1503点の高点数となる。同診療料算定医療機関が院内処方を行う場合の服薬管理は、「24時間開局薬局」であることが要件。地域で24時間対応の服薬指導・管理を行っている保険薬局は、必然的に同診療料届出医療機関から“選ばれる”ことになるし、療養担当規則上の患者誘導にも当たらないとの解釈だ。また前述の大型薬局に対する調剤保険料の大幅な減額措置に対しても、「24時間開局」の場合は適用除外とされる。
 要するに大型門前薬局は今後、24時間対応可能な体制を備えなければ生き残りが難しくなるし、主治医から“選択される”のが、困難な時代になって来ると言うことだろう。
 さらに、2016年の診療報酬改定では、いわゆる大型門前薬局等に対する評価を適正化し、「かかりつけ薬局」の機能を果たしている薬局が重点評価される。

「立地重視」のビジネスモデルからの転換

 これまで調剤薬局はマンツーマン薬局や門前薬局と呼ばれたように、医療機関のマーケティングに依存してきた傾向が強い。要するに医療機関の患者が増加すると処方せん枚数が増え、逆に患者が減少すると処方せん枚数が減るという構図。しかし、一部の大都市を除き人口高齢化と減少が進み、これからの医療機関は増患が困難な時代を迎えている。そのため、旧来型の発想からの転換が必要になる。
 調剤薬局経営では、急性期の大病院が移転や新設する等の情報を得ると、すぐさま近接地を押さえて大型門前薬局を開設するという“立地重視”のビジネスモデルが一般的だった。資金力があり至る所に情報網を張り巡らした全国展開の調剤薬局チェーンと比較すると、地域密着型の調剤薬局グループは“情報戦”では苦戦を強いられてきた。
 また大手流通系企業や外食産業等、他業種の大企業が虎視眈々と調剤薬局ビジネスへの参入を目論んでいる。厚生労働省の政策誘導によって独自の進化を続けてきた調剤市場ではあるが、異業種が次々と新市場を狙って参入し、気が付けば異業種により在来種が駆逐 され衰退するという、カラパゴス化現象が起こりかねない状況が到来しつつある。
 前述の大病院に対する外来受診抑制策に加えて、調剤報酬での大型門前薬局規制等を見ると、行政が医薬分業を普及させる時代は終焉したとも思える。そのため現状に留まるのではなく、将来も事業を継続出来る仕組みを今、仕掛けていくことが重要になる。要するに、調剤薬局も新しい業態開発の時代を迎えているのだ。

調剤薬局の付加価値を創る新しい試み

 調剤薬局経営に詳しい鰍jaeマネジメント代表取締役で薬剤師、中小企業診断士の駒形和哉氏は「薬局独自のマーケティング活動が不可欠」と前置きし、「近所のお年寄りが自宅から離れた国公立病院へと、わざわざ通院するケースをよく見る。大病院の門前薬局は常に混雑し待ち時間が長いのに、患者側には門前薬局でしか調剤が出来ないとの誤解がある」と指摘する。例えば患者が他の疾患で近隣の診療所を受診し、自薬局に来たと仮定する。薬を渡す際に「お薬手帳」を確認して初めて、普段は大病院の門前薬局に来局していることが分かる。同氏は「“本日の当薬局での薬剤は、市立○○医療センターから処方される薬との飲み合わせに関しては大丈夫です。この薬は当薬局にも置いていますので、もしよろしければ次回は処方せんをお持ち下さい”の一言が重要になる」と指摘する。
 更に患者の殆どが地域住民で占められる場合に、処方せんを受け付ける際に名前で呼んでみては如何だろうか。画一的に「お早うございます」ではなく、「○○様、お早うございます」を習慣づけることで、患者の薬局に対する親近感は増すし、特に高齢者のプライオリティーは高まる筈だ。勿論、個人情報等の視点から、許容される範囲内に留めることは言うまでもない。
 基本的に現状の調剤薬局の顧客に若い人は少なく、高齢患者が大多数を占める。高齢患者には処方せんの背後に見える介護情報の発信が欠かせない。特に地域で家族の介護問題に苦労されている人は多いと想定される。薬剤師が「介護認定を受けたいのですが?」との家族からの問い合わせに、きちんと応えていくことが求められよう。介護情報の発信は今後、「頼れる薬局」の基本になる。介護認定の流れやサービス内容、居宅介護支援事業所や地域包括ケアシステム等の機能を、十分に説明できる体制を備えたいものだ。更に地域の信頼できる介護事業所や施設等を、紹介可能な資料があれば万全と言える。
 また今後、認知症高齢者を抱える家族の問題が、深刻化していく。薬局でも認知症専門医療施設紹介の需要が増す筈だし、可能であれば薬局スタッフが「認知症サポーター」の資格を取得し、地域住民からの相談に応えられることも大事。実際にある地方都市では、調剤薬局が地域包括支援センターと協力して地域の認知症サポーターの養成や、認知症相談活動を実践する薬局薬剤師も現れている。
 スペース的に余裕があれば、薬局待合の一画に認知症カフェを設置しボランティアである「認知症サポーター」の協力を得て、地域住民に開放しても良いだろう。
 一つの例として、福岡の「そうごう薬局天神中央店」は、2013年3月から待合スペースの一角に「がん対話カフェ」を開設し、専門的な教育を受けた薬剤師が不安を持つがん患者さんの傾聴活動や心のケアを行っている。このような形で、調剤薬局の新しい付加価値を創る試みは、全国各地で実際に動き出しつつある。