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[インタビュー]「是正勧告」〜精神科医療施設の労務リスク・マネジメント

外山法律事務所 外山 弘先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

 全国労働基準監督署の調査によると、医療機関が大半を占める「保健衛生業」は近年、労働時間、割増賃金、就業規則の何れにおいても、最も違反率の高い業種の一つとして、重点的に監督指導・是正が行われてきた。特に精神科医療施設は職員にストレスが蓄積されやすい環境にあり、経営管理責任者や管理職は職員のメンタル・ヘルスも含めて、労働環境の整備に細心の注意を払うことが肝要だ。
 精神科医療施設の労務トラブルに詳しい弁護士の外山弘先生に、法律的な観点からの労務リスク・マネジメントの要諦について、お話を伺った。

労基署介入後、83%の医療機関が是正勧告
多くのリスクを誘引する労務問題

―近年、日本の企業では外食産業等で、加重時間労働に関するトラブルが表面化し、社会問題化していますね。

外山:労働基準監督署への相談が激増し、余り知られてはいませんが年間約110万件もの相談件数が発生しています。最近は過重労働だけでなく、職場でのいじめ、要するにパワーハラスメント関係の相談が顕著に増えているのが特徴です。医療機関では大学病院や公的病院等が是正勧告を受けて、1億円を超える割増賃金を支払った事例が報道されています。
 サービス残業に関する労務トラブルは、以前は看護師が圧倒的に多かったのですが、最近では勤務医の未払い残業が目立っています。最も注意すべきは、医師当直のオンコール待機。医師が自宅待機でポケットベルにより呼び出されるようなケースで、実際に頻繁に呼び出された医師の裁判例もあります。要するに待機の待ち時間も全て労働時間に含めるとの判例で、病院側が1500万円以上の支払いを求められたわけです。
 病院が同監督署に立ち入り調査されるのは実に不名誉なことだし、実際に入られた場合には83%の割合で是正勧告を受けています。医療機関は是正勧告の打率が非常に高く、同監督署からはコンプライアンスの極めて遅れた業種の一つとして見られています。
 8割以上が是正・指導を受けて、未払残業の多額な支払いを余儀なくされる。これは病院経営にとっても、由々しき事態だと思います。

―これまで医療機関は労務トラブルの危機管理に力を注いでこなかった。医療安全管理に力を注いでも、労基法の法令順守が疎かという病院も少なくありません。労務トラブルへの危機感が薄かったということでしょうか?

外山:まず労務問題の専門家を常勤職員として置いている病院は、殆どありません。更に初歩的な問題として時間外労働を命じるには労基法36条の三六協定を締結して、労働基準監督署に届出する必要がありますが、それすらも行われていない施設が現実に多いのです。
 その点は確信犯ではなく杜撰な労務管理の結果であり、病院経営者の関心がそちらに向かっていない、優先順位の低さが原因のような気がします。医療専門職の流動性が高く人材確保に必死で余裕がないのか、労基法等が頻繁に改正されるので対応が追いつかないのか、色んな要因は考えられるでしょう。しかし労務問題は、経営上のリスクが非常に高い分野です。未払残業の支払いだけでなく、最悪の事態として過労死問題を引き起こすことも想定されます。医療ミスの要因を分析しても、過酷な労働環境に起因することが多いことを考えると、様々なリスクを誘引する問題であることを認識して頂きたいと思います。

91(13.06.07)