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地域医療「再生」の切り札・社会医療法人の「現在」

急速な再編が進む公的病院の「受け皿」としての役割を期待

 2006年の第五次医療法改正により、翌2007年に創設された社会医療法人制度は、2008年4月1日以降から各都道府県での認定がスタートし、2009年12月現在で73法人が承認を受けています。その内訳を見ると東京都では未だ2法人の認定しかない一方で、大阪府は8法人と最も多く全体的に西高東低の傾向が際立っています。社会医療法人(以下同法人)は救急、災害、へき地、周産期、小児救急の5つの何れかで一定の実績があることや、透明性の高い経営体制が整備されていること等を条件に認定されます。73法人のうち業務区分として、現状では「救急医療」での認定を受けた医療法人が大半を占めています。総務省主導の公的病院改革や地方財政の悪化、医師不足等の影響により、各地で公的病院の閉鎖・救急医療の廃止という事態が進行していますが、厚生労働省は同法人に、急速な再編が進む公的病院の「受け皿」としての役割を期待しているように思われます。筆者は2009年夏から2010年にかけて、同法人の認定を受けた複数の医療機関を取材する機会を得ました。そこで取材したデータを元に、社会医療法人の「現在」を検証したいと思います。
 実際に社会医療法人は①自治体病院民営化公募の際に有利になる ②同一医療圏で自治体病院の有休病床が優先的に割り当てられる ③監査義務を前提に資金調達手段として社会医療法人債(公募債)の発行が可能になる等のメリットがあるとされています。
 現実に岐阜県の多治見市と社会医療法人厚生会(木沢記念病院)の間で、2009年5月多治見市民病院の管理運営に関して指定管理者の契約を締結、2010年4月より指定管理者制度に移行することが決定しました。これは社会医療法人が、自治体と指定管理者の契約を結んだ第一号のケースです。 
 この他にも愛知県の認定を受けた社会医療法人財団せせらぎ会が、2007年に東栄町国保東栄病院の指定管理者になりました。同会は国保東栄病院によって設立された医療法人で、2009年4月1日、社会医療法人の認定を受けたものです。同じく2009年4月1日に社会医療法人に承認された愛知県の杏嶺会は、一宮市立尾西市民病院の経営移譲先となり、2009年4月から尾西記念病院と名前を変えて再出発を遂げました。
 このように、社会医療法人が公的病院の「受け皿」となるケースが、制度発足以降、徐々に表面化しつつあります。財務基盤が強固で経営体力のある社会医療法人は、国が目指す「官」から「民」への流れに乗って、積極的なM&Aにより自治体病院を引き受け、グループ化を図っていこうとする動きも出てきそうです。

社会医療法人の普及は地域で崩壊進む救急医療を救う道

 社会医療法人の認定を受ける最大のメリットは、やはり税制面での優遇措置。制度に先立って組織化された「社会医療法人協議会」が厚生労働省や政府に公的病院並みの税制適用を要望してきた結果、2008年度は医療保健事業の法人税非課税化、2009年度は固定資産税、不動産取得税、都市計画税の非課税化を勝ち取りました。今後は社会福祉法人等と同等の特定公益増進法人として位置づけ、寄付金控除の実現を訴えていくことになります。
 社会医療法人を取得したある医療法人理事長は、「わが国では国公立病院以上に民間病院が救急医療を支えてきた背景があるにも係らず、経営環境がイコール・フィッティングになっていない現実があります」と指摘。補助金等を期待出来ない民間病院が救急医療体制を維持するには多大なコスト負担を余儀なくされますが、「社会医療法人病院の普及は日本の救急医療を救うための、一つの道筋を付けることになります」との見方を示しています。
 特に大阪府では近年、総務省主導の公的病院改革や医師不足等の影響で、各地で公的病院の閉鎖・救急医療の廃止という事態が進行しており、民間医療機関が救急搬送の80%近くを担い、地域医療を支えてきた現況があります。
 大阪市の協和会は2009年1月の社会医療法人化を見据えて、同会が運営する加納総合病院(300床)の三次救急医療の強化・拡充を図るべく、2007年5月に施設のリニューアルを敢行。現在、加納総合病院の年間救急搬送件数は5000件を超え、他に運営する北大阪病院(77床)を合わせると年間9000人を超える救急患者受け入れを可能にしています。年間750件の認定要件を十分にクリアし、両病院とも同規模の中小民間病院ではトップクラスの実績です。
 2009年7月27日に和歌山県下で初の社会医療法人となった黎明会は、人口約2万6000人の御坊市で北出病院(182床)を経営し、地域密着型病院として予防から保健・医療・福祉まで、幅広いサービスを包括的に提供可能な体制を整えています。
 182床のうち急性期病床は83床と小規模ですが、随分前から「1年365日24時間」の救急医療体制により、地域住民の健康を支えてきました。同会の事業要件は「救急」によるものですが、近年の救急搬送件数は450件前後で推移していたため、同会の認定は、「(休日・夜間・深夜加算〈初診〉/初診料算定件数=20%以上)」の条件によるものでした。人口減少地域に在る同病院には、「夜間・休日の救急搬送件数750件以上」という実績要件は厳しいものでしたが、新患に占める救急・夜間・深夜の受け入れ比率は常に30%を超えており、十分にクリア出来る条件でした。また黎明会は早くから同族色を排し、財務内容も職員に公開して透明性の高い病院経営を実践してきました。
 全国各地で地域医療の崩壊が深刻化する中、和歌山県も和歌山市と田辺市に医療資源が集中し、医師不足による地域偏在が顕著になりつつあります。北出病院の在る「御坊・日高二次医療圏」内だけでなく、“外に”向けての救急医療の展開に県民の期待が寄せられています。社会医療法人化は、そのための「後押し」をしてくれる制度と言えそうです。