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より良い論文執筆とクリティカル・リーディングのためのガイドライン
『日常臨床に研究成果を活用するために』

3. 観察研究において研究成果を適切に報告している程度

 研究成果を適切に報告するためのガイドラインは、様々な研究法に合わせて作成されていますが、残念ながら、これらのガイドラインに従っている研究は、まだ多くないことがわかっています。ここでは、おそらく最も多くの人が研究する機会の多い、観察研究 (表 2) を例に、どの程度の研究が、研究成果を適切に報告するためのガイドライン (STROBE22)) に従った報告をしているかを紹介します。Fung et al27) は、新生血管性加齢黄斑変性症に対する治療法を検討した、症例シリーズ研究 (対照群を伴わないコホート研究) を系統的に収集して、29編の研究報告の質を評価しています (表 3)。例えば、論文の「材料と方法」で記載すべき情報のうち、「可能性のあるバイアスへ対処するためのすべての努力を記述すること (項目 9)」「どのように標本サイズを決定したかを記述すること (項目 10)」「欠損値処理の方法を説明すること (項目 12c)」の3項目を適切に報告している研究は、20%を下回ることが示されています27)。研究成果を適切に報告する研究が増えるよう、努力していく必要があります。

表2 観察研究の定義と具体例
研究法 定義 具体例
コホート
研究
研究者は調査参加者を長期にわたって追跡する。研究者は基準となる時点の「調査参加者の情報」及び「暴露」の情報を入手する。時間がたった後に、評価する事象の発生の情報を入手する。 過去5年間に受診した統合失調症患者の中で、初めて抗精神病薬を処方する時に (基準となる時点)、抗精神病薬の種類の情報 (暴露) 及び、糖尿病の有無の情報を入手し (調査参加者の情報)、さらに、3か月後に糖尿病の有無の情報を入手する (評価する事象の発生の情報)。そして、抗精神病薬の種類により、糖尿病の発症率が異なるかを比較する。
症例対照
研究
研究者は、特定の疾患を持つ調査参加者 (症例) と、持たない調査参加者 (対照) の暴露を比較する。研究者は、想定する集団を代表的する症例と対照を収集する。 統合失調症患者の中で、糖尿病になった者 (症例) と、糖尿病になっていない者 (対照) を比べて、処方されていた抗精神病薬の種類が異なるか (暴露) を比較する。
横断研究 研究者は、すべての調査参加者を、同時点に評価する。 統合失調症患者の中で、現在処方されている抗精神病薬の種類と、空腹時血糖値の関連を調べる。


表3 観察研究において研究成果を適切に報告している程度
該当箇所 研究法の具体例 番号 遵守
タイトル及び
抄録
タイトル又は抄録に、一般的に使われる用語で、研究法を明示すること。 1a 86%
  抄録では、何を行い、何がわかったかを、情報的に (i.e., 標本サイズ、推定値とその信頼区間)、バランスよく (i.e., リサーチ・クエッション、方法と結果の短い記述、結論) 要約すること。 1b 93%
序論
背景と論拠 科学的な背景と (i.e., 適切な先行研究と、メタ分析の研究を述べる)、研究を実施する論拠を説明すること。 2 100%
目的 研究仮説と共に、具体的な目的を述べること (i.e., 調査対象、暴露と評価項目、推定量を含める)。 3 72%
材料と方法
研究法 (方法の冒頭または序論の最後で) 研究法を明示すること。 4 76%
セッティング セッティング (e.g., 選挙人名簿、外来診察室、腫瘍登録や専門治療機関) と調査を行う場所 (e.g., 国、町や病院) を述べること。 5a 34%
研究に関連する日付、つまり、調査参加者の登録期間 (i.e., 登録開始日を明記する)、暴露期間、追跡期間、データ収集期間について記載すること。 5b 52%
調査参加者 適格基準を述べること。 6a 66%
母集団及び標本抽出法を記述すること。 6b 45%
追跡方法を記載すること。 6c 65%
マッチングを行う場合は、マッチングの基準及び、暴露群と非暴露群の標本サイズを述べること。 6d --
変数 すべての評価項目、暴露、予測変数、考えられる交絡変数及び層化変数を定義すること。該当する場合は、診断基準を明記すること。 7 83%
データ源 及び
測定方法
興味のある各々の変数について、データ源及び測定方法の詳細を述べること (i.e., 信頼性や妥当性の情報を述べること)。2群以上ある場合は、測定方法の比較可能性を述べること。 8 --
バイアス 可能性のあるバイアス (i.e., 情報バイアスや選択バイアス) へ対処するためのすべての努力を記述すること。 9 17%
例数設計 どのように標本サイズを決定したかを記述すること。 10 7%
連続変数 統計解析で、連続変数をどのように扱ったかを説明すること。該当する場合は、離散化をする理由と、方法 (i.e., 水準数、区切り値、水準ごとの平均値や中央値) を記述すること。 11 --
統計手法 交絡変数の調整方法を含めて、すべての統計手法を記述すること。 12a 93%
下位集団及び交互作用を調べるために利用したすべての統計手法を述べること。 12b --
欠損値処理の方法を説明すること。 12c 12%
該当する場合は、追跡時の欠損 (i.e., 脱落例) の扱い方 (i.e., 脱落例数及び打ち切り方法) を述べる。 12d 38%
感度分析 (i.e., 交絡の程度、選択バイアスや情報バイアスの影響を調べる方法) について述べる。 12e --
結果
調査参加者 研究の段階ごとの標本サイズを報告する (e.g., 適格基準に該当する可能性のある標本サイズ、実際に適格基準を調べた標本サイズ、適格基準に該当した標本サイズ、研究に組み込まれた標本サイズ、追跡できた標本サイズ、分析に用いた標本サイズ)。 13a 59%
研究の段階ごとに、研究に参加しない理由を述べる。 13b --
流れ図を利用することを考慮する。 13c 3%
記述データ 調査参加者の特性 (e.g., 人口統計学的、臨床的、社会的特性)、暴露及び、考えられる交絡変数の情報 (i.e., 平均値と標準偏差や、中央値と四分位範囲) を記載する。 14a --
興味のある各々の変数について、欠損値数を示す。 14b 12%
追跡期間を要約する (i.e., 暴露群と非暴露群ごとの追跡期間の平均値や中央値、最小値及び最大値や四分位範囲) 14c 83%
評価データ 評価する事象の発生数 (i.e., 暴露群と非暴露群ごとの事象発生数など) や、要約統計量 (e.g., 平均値と標準偏差) を経時的に示す。 15 --
主要な結果 調整をしない推定値並びに、該当する場合は、交絡変数を調整した場合の推定値及びその信頼区間を示す。また、どの交絡変数を調整し、その交絡変数を調整する理由を述べる。 16a 97%
連続変数を離散化した場合は、水準の区切り値を報告する。 16b --
該当する場合は、相対危険度を、意味のある期間の絶対危険度に変換することを考慮する (e.g., 相対危険度を副作用発現必要症例数に変換する)。 16c --
他の解析 他の解析結果を報告する (e.g., 下位集団、感度分析)。 17 --
考察
主な結果 研究目的に関する主要な結果を要約する。 18 93%
限界 可能性のあるバイアスや不正確 (i.e., 標本サイズ、交絡変数、評価項目及び暴露の測定の信頼性などにより生じる不正確) を考慮して、研究の限界を考察する。可能性のあるすべてのバイアスについて、研究結果に影響する方向性と、影響の大きさを考察する。 19 66%
解釈 研究目的、限界、解析の多重性、同様の先行研究の結果及び、その他の関係する証拠を考慮して、注意深い総合的な解釈を述べる。 20 76%
一般化可能性 研究結果の一般化可能性 (i.e., 外的妥当性) について考察する。 21 69%
他の情報
資金 本研究の資金源及び資金提供者の役割並びに、該当する場合は、本研究の基になる最初の研究について記載する。 22 59%

注) 筆者が、Fung et al27) のTable 2を改編したものである。赤字は遵守率が50%未満であること、--は当該項目の情報は検討されていないことを示す。
※ 数字)の表記は、PAGE6 「引用文献」の文献番号です。